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【小説】純血統種に報復を 第4話 はぐれと純血統種

第4話 はぐれと純血統種

オクタヴィアンたちの報告を受けて、プラチナブロンドの髪に、赤い瞳の男性は、あごに手を当てて、考え込むようなしぐさを見せる。
彼らたちの父親、魔人まじんの住む地ユグレイティを治める魔王カミュスヤーナ、その人である。

「はぐれと純血統種じゅんけっとうしゅを見分ける方法、か」
「お父様なら何かわかるのではないかしら?」
水色の髪、青い瞳の女性が、カミュスヤーナの隣で微笑む。オクタヴィアンたちの母親、テラスティーネだ。

「疑問に思ったことは、即、解消しておかないと」
テラスティーネは、部屋に設置してあった棚から、大きな手鏡のようなものを取り出す。それを自分の顔の前に掲げて、手鏡であれば、鏡がある面に向かって話し始めた。

「お父様。お伺いしたいことがあるのですが」
しばらくすると、彼女の顔と対している部分がぼやけだし、一人の男性の姿を映し出す。
「何用か?テラスティーネ」
水色の髪に、金色の瞳。オクタヴィアンたちのお爺さま。天仕てんしのアルフォンスだ。

「お父様は、はぐれと純血統種を見分ける方法をご存知ですか?」
テラスティーネの問いに、彼は大きく息を吐くと、米神こめかみに人差し指を当てた。
「確か説明したと思ったが。タヴィとエルに渡した魔道具があっただろう?天仕の住む地にいる時は常に身につけるよう言っておいたものだ」
彼が言っているのは、向こうにいる時に、左手首につけていた腕輪のことだ。

「純血統種は特別な光に当たると、額に文様もんようが浮かび上がる。その魔道具は、文様を忠実に再現して、光に当たった時に同じように文様を浮かび上がらせる。純血統種しか入れない建物の入り口などに、その光を発する扉が設置されている」

そうなのか。常に身につけているよう言われていたが、文様が浮かび上がる様子は見ていなかった。今度、建物の入り口の扉を潜る時に、兄の額を見てみようと、エルネスティーネは思う。

「純血統種がはぐれを狩る時はどのように見分けているのですか?」
「知り合いなら顔でも見分けられるが、その光を発する魔道具を携帯している。それを相手の額に照射して判断する」
「なるほど。よくわかりました」
テラスティーネが会話を終わらせようとすると、アルフォンスがこちらに向かって問いかけてくる。
「例の話は進んでいるのか?」

テラスティーネは自分が持っていた通信道具を、カミュスヤーナに手渡した。
カミュスヤーナが、アルフォンスに対し、今までに分かったことを簡潔にまとめて話していく。
「それで、はぐれをまとめる決心はつきましたか?アルフォンス様」
カミュスヤーナの言葉に、アルフォンスは大きく息を吐く。

「私はそのようなうつわではない」
「聞く限り、向こうのはぐれの中では、アルフォンス様は有名でしたよ。純血統種に反抗する唯一のはぐれとして」
「私は姉を守りたかっただけだ。そのためには力が欲しかった」
結局、守り切れなかったが。と言って、彼は顔をゆがめる。

アルフォンスの姉、リシテキアは、純血統種に襲われ、このユグレイティの地に墜落ついらくした。そのため、後の夫となるマクシミリアンに会うことができたが、息子のカミュスヤーナを人間の住む地に逃がそうとした時に、また純血統種の襲撃を受け、致命傷を負って亡くなっている。

「同じような目にあうはぐれが出る前に、決断されることを望みます」
「……もう少し、時間をくれ」
「私はアルフォンス様が決断されるまで待つつもりです。ですが、状況が許すかどうか」
2人はお互い見つめ合ってから、通信を切った。

「と、いうことだ。はぐれに天仕の住む地の統治を託すのに、邪魔なのは、はぐれを狩る純血統種と王族だな。はぐれを狩る純血統種は割と好待遇らしく、元々はぐれをしいたげていた者がなることが多いらしい。そちらは力でねじ伏せるだけでいいから、私かエンダーンで対処しよう。あとは王族だが……」
カミュスヤーナは、オクタヴィアンとエルネスティーネに視線を向ける。

「王族の一人と接触できたとか」
「偶然ではありますが、王の一人娘セラフィーナです」
「セラフィーナは、はぐれが狩られて、供物くもつとして捧げられていることを知っているのか?」
「どうでしょうか?セラフィーナは次期王位継承者ではないので、知らない可能性もあるかもしれません」
「知らなければ、こちらに引き入れられるだろうか?」
「父や兄を裏切れるでしょうか?」

「もう少し情報が欲しいな。再度の接触は可能か?」
「王宮図書館に日参しているようです。一般公開の時間に来ることはありませんが、前回同様の理由を並べれば、接触は可能かと」
「では、引き続き情報を集めよ」
カミュスヤーナは、エルネスティーネに対して命を出した後、オクタヴィアンに向かって呼びかけた。
エルネスティーネの隣に座っていたオクタヴィアンの口の端が、わずかに引きつるのが見えた。

「なんでしょうか。父上」
「私情を挟んでも、まぁ、いいが、深追いはするな。いいな?」
オクタヴィアンとカミュスヤーナの視線が交差する。同じ赤い瞳。その内、オクタヴィアンが目を伏せた。
「はい。分かっております」
カミュスヤーナは、オクタヴィアンの様子を見つめ、軽く息を吐いた。

第5話に続く


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説那(せつな)
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