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【短編】衣替え

短い梅雨が明けて、蒸し暑い日が続くようになった。
今日は朝からいい天気だったので、たくさん洗濯をして、ベランダに干した。夕方からまた天気が崩れる恐れがあるので、それまでには取り込まないとならないが、多分乾くだろう。

洗濯物を干している最中に、アパートの隣の住人もベランダに出て、洗濯物を干している。私の方が先に干し終わったので、外の景色を眺めているふりをしつつ、隣人の方を伺う。

あれ?髪、急に伸びてるな。
サラサラのストレートの黒髪が、背中で揺れているのが見えた。

隣人の人と仲がいいかと言われると、はいと答えるのは難しい。悪くはないけど、良いとも言えないというくらい。会えば挨拶もするし、実家から送られてきた野菜などをおすそ分けしたりもするけど、しょっちゅうやり取りをするわけでもないし、頻繁に顔を合わせるわけでもない。

でも、半月くらい前に会った時は、もっと髪形はショートだったと思うんだけど。半月で伸びる長さでは、とてもない。

そんなことを考えてぼんやりとしていると、隣人がこちらの視線に気づいてしまったのか、笑って会釈をした。
「梅雨、開けちゃいましたね。」
「ほんとに。洗濯物が乾きやすいのはいいんですけど、こんなに暑いと嫌になりますね。」
私の言葉を聞いて、彼女は私の全身に上から下まで視線を送った。

「・・まだ衣替えされてないのでは?」
耳の下に人差し指を当てて、首を傾げる彼女の仕草は、とても可愛らしかった。そして、彼女に指摘されて、自分が暑いと感じる理由も、彼女の髪形が急に変わった理由も、理解した。全て、衣替えのせいだった。

「そうだ。忘れてた。」
「もう6月も後半なのに。」
「何となく面倒くさくて、後回しにしてました。」
彼女は半袖のワンピースを着ていたが、私が着ているのは長袖カットソーにロングスカートだ。

「・・何ならお手伝いしましょうか?」
彼女は、私の言葉を受けてそう言った。
「え、そんな、悪いです。」
「今日は休みなので時間もありますし、最後の最後は無理ですけど、その手前までならお手伝いできますよ。」
「いや、でも・・。」
それほど親しくない隣人に、衣替えというプライベートなところを手伝ってもらうのは、あまりいいことではないと思う。

「今日は私も休みなので、大丈夫です。今日これから手を付けます。」
「そうですか?残念です。」
彼女はしゅんと肩を落とす。
あれ、隣人ってこんなに可愛い子だったっけ。
「あ、あの。だったら、衣替え終わったら、どこかに一緒に出かけませんか?」
「本当ですか?」

彼女はその顔をぱあっと明るくした。
その笑顔を見て、私は気づいた。そうか、隣人が引っ越してきたのが、去年の冬だった。だから、彼女・・に会うのはこれが初めて・・・なのだ。
「実は、ずっと声をかけようと思ってたんです。でも、勇気がなくて、すみません。」
彼女は恥ずかしそうに言葉を紡ぐ。
そんな風に可愛い女の子から好意を向けられると、私も戸惑ってしまう。

「でも、衣替え後の私には会っていないですよね?確認せずに約束してしまっていいんですか?」
「別にこれから知っていけばいいだけの話ですから。」
彼女はそう言って笑った。
「貴方も私の衣替え前の姿を嫌だと思いましたか?」
「・・いえ、色々助けてもらいましたし、電球替えるのとか。」
「そんなこともありましたね。」

「じゃあ、直ぐに衣替えを済ませるので。終わったら伺いますね。」
「はい。お待ちしていますね。」
彼女は私の言葉に嬉しそうに微笑んだ。思わずその笑顔に見惚れそうになって、頭を振って、気持ちを切り替えた。
手を振って彼女に別れを告げ、部屋の中に戻ると、すぐさまクローゼットに向かう。実際は中身をそっくり入れ替えるだけだから、それほど大変ではない。

私は手早く冬物を片付け、夏物をクローゼットの引き出し収納に入れていく。最後に手元に水色の大判の風呂敷のような布を取り出した。合わせて夏物衣料一式を、下着も含めてベッドの上に揃えて置いた。
「さてと。」
部屋のカーテンを引いて、外から中が見えないようにすると、今着ていた衣服を下着も含めてすべて脱いだ。そして、背中の中央にあるファスナーを下げられるところまで下げていく。

今着ている最後の衣を脱ぎ、手元に取り出していた水色の布を纏う。そして、背中の中央にあるファスナーを上げれば完了だ。
脱いだ衣は赤の布に変わった。丁寧にたたんで、先ほど脱いだ冬物衣服と共にクローゼットの奥にしまった。その後、ベッドの上に置いてあった服に着替える。
「完了っと。さっさとやっとけばよかったな。」
誰にも聞かれない独り言をつぶやきながら、洗面台に向かう。

洗面台の鏡には、黒髪の男性の姿が映っていた。約半年ぶりなので、衣替え後に自分の姿を見ると、若干違和感がある。
俺はその違和感を打ち消すかのように顔を洗う。
タオルで顔を拭きながら、これから隣人の彼女とどこに行こうかと考えを巡らせた。顔が緩むのを抑えることができなかった。

衣替えしました。解釈をコメントに書いておきます。

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