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短編小説Only

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普段は長編小説を書いていますが、気分転換に短編も書いています。でも、この頻度は気分転換の枠を超えている。 短編小説の数が多くなってきたので、シリーズ化している(別のマガジンに入っ…
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#別れ

【短編小説】私達が別れたのは、当然の帰結だった。

食卓に並べられた夕飯を見て、夫である透は、その瞳を輝かせる。今日はパートが休みだったから、普段よりは手が掛けられた夕飯だ。パートの日は、帰りがけに買ったスーパーの総菜が並ぶことも多いが、彼はそれに文句を言うことはないし、いつもありがたがって食べてくれる。 透と私は、5つ、歳が離れている。私は大学を卒業し、地元に帰って就職したが、職場での折り合いが悪く、1年ほどでその職場を辞めてしまった。正社員での職がなかなか見つからず、仕方なく、ロードサイドに面したチェーン店でもある本屋で

【連作短編】泣く男 吉川3

映画のエンドロールを見ながら、俺は大きく息を吐いた。 手元にあるフェイスタオルで顔を拭う。タオルは大分湿っていて、顔も吐き出す息も熱かった。 隣に目をやると、まだ画面に視線がくぎ付けになっている彼女の姿があった。自分以上に涙を流しているのに、その涙を拭おうともせず、動きを止めている。 エンドロールが終わると同時に、深々と息を吐いて、隣にいる自分に今気づいたとばかりに視線を向けた。 「どうでしたか?」 「こんなに泣くとは思ってなかった。」 俺の言葉を聞いて、彼女はどうだと言

【短編】信じられない言葉

Scene 1 先日、私の彼だった人から電話があった。 「分かっていると思うけど・・。」 彼はそう話を切り出した。 自分は今疲れていて、誰かと関わっていたくない。 できれば、誰とも会いたくない。 だから、お前とも会えない。 だから、お前に別れを切り出した。 前回、承諾してくれたよな? 俺は人と別れる時は、二度と縁づかないように徹底的に関係を断ってしまうけど、お前とはそうはしたくない。友達にはなれると思う。 結局、誰とでも俺は駄目なんだ。俺はどうしてもあいつと比べてしま

【連作短編】笑う男 吉川1

仕事で忙しい時、辛いと感じる時、自分は無理やりにでも、笑みを浮かべるようにしている。 いつも夜中に自宅に帰ることになっても。 休みの日に、自宅でパソコンの前で作業をしていることが増えても。 食事の大部分がコンビニ弁当となっても。 まぁ、無理やり笑みを浮かべようとしなくても、自然と笑えてはくるのだが。 この状況に。 笑みを浮かべていると、あいつは余裕があるんだなと思われるらしい。 一つの仕事が終わると、見計らったように違う仕事が降ってくる。 自分の手元には、常に数件の案件が並

【連作短編】いつ見ても、綺麗だね。翔琉1

片手に乳白色のごみ袋を持ち、部屋に置いていった彼女のものを入れていく。泊まっていった日の翌日に使った化粧品の類、よい香りのする石鹸、彼女が使っていた歯ブラシ、パジャマ代わりにしていた室内着・・。 思っていたより数はなかった。 「あぁ、しんどい。」 ごみ袋を放り投げると、床に敷いてあるラグの上に寝転ぶ。毛足が長く、そのまま寝そべっていると、また寝てしまいそうだ。 普段はまだ寝ている時間なのに、何故か早くに目が覚めてしまった。以前、休みの日は大抵彼女と過ごしていたから、その癖で

【短編】計算された別れ

「別れよう。俺たち。」 耳に当てたスマホから、彼女が息を呑む音が、聞こえてきた。 その後、湿った声で、彼女が理由を問いかけてくる。 「朱里が嫌いになったわけじゃない。ただ、やっぱり前に付き合っていた人が忘れられなくて。」 そう言ったら、彼女は向こうで泣き出した。 「放っておけないんだ。朱里は可愛いし、いい子だから、きっとすぐに他の彼氏も見つかるよ。でも、彼女には俺だけしかいないんだ。」 「朱里は、一人でもしっかりしてるから、大丈夫だろ?もう、俺の気持ちは変わらないか