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短編小説Only

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普段は長編小説を書いていますが、気分転換に短編も書いています。でも、この頻度は気分転換の枠を超えている。 短編小説の数が多くなってきたので、シリーズ化している(別のマガジンに入っ…
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#結婚

【短編小説】結婚しなくていいと思ってるのは、貴方だけかもしれません。

彼と一緒に住み始めた当初、私達には結婚願望というものがなかった。 共に仕事が順調で、大きな仕事を任せられるようになっていた。結婚するとなると、その準備に時間もお金も取られる。それに子どもを持つことだって考えなくてはならない。 不安なことは、たくさんあるのに、それ以上のメリットってあるんだろうか。 今が楽しければ、それでいいじゃない。 そんな気持ちで、私達はもう5年も付き合っている。 定期的に会っている大学院時代の先輩から、結婚することを聞かされたのは、やはりそんな集

【短編小説】あの時、告白してなかったら

最寄駅前のカフェに入ったら、思っていた以上に客がいて驚いた。今の時刻は午前6時半過ぎ。大半は夜行バスで来た人が時間を潰しているんだろうと思う。 だが、その内、一人で過ごしている女性は、待ち合わせ相手の彼女しかいなかった。その横に立つと、彼女は手元の本から視線をあげて、自分を見上げる。 「ロミさんですよね?」 彼女は私の言葉にニッコリと笑んで応えた。 「そうです。はじめまして。幾夜さん。」 改めてコーヒーを頼みに行き、彼女の前の席に座る。 何と話を切り出していいか分か

【短編小説】5年もあれば、いろいろあるよ。

毎年、年賀状をやり取りするだけの薄い関係だったが、5年前からそれも無くなった。返事がないと分かっていたが、身の回りが一段落ついたある日、私は手紙を書いた。 できるだけ、相手の負担にならないような文章を心がけたつもりだ。ただ、5年間に様々なことがあった私は、それらを全て相手に打ち明けた。たぶん、聞いてくれる相手が欲しかったんだと思う。その手紙に対し、「久しぶりに会いませんか?」と返事が来た時は、とても嬉しかった。 そして、実際に会って、私はその空白の5年間を実感する。 彼

【短編小説】会わなくても、好きだけど。

私は、今付き合っている恋人に、一度も会ったことがない。 彼と知り合ったのは、SNSで、私が推していたアーティストのことを、彼も好きだったという、ただそれだけのことだった。コメントしてみたら、返事が帰ってきて、意気投合したというだけ。 その内、SNSだけでなく、電話でも話すようになった。話す内容は、徐々に広く深くなり、話す頻度も高くなった。その内に私の中では、彼の存在が大切で特別なものになった。 彼が本当のことを話しているのかなんて確かめられないし、もしかしたら全て嘘かも

【短編小説】好きでいることの証

久しぶりに会って、話が弾み、カフェに長居をした僕達だったが、そろそろ終わりにしようと、席を立つ準備をしていた時だった。 「私、南室くんが好き。」 その言葉に、彼女の方を振り向くと、彼女は僕の視線を受けとめて、ニッコリと笑った。 「えっと。」 思わず言いよどむ。自分の聞き間違いかと思う。だって、そんなそぶり、先ほど話している間に全く出なかった。 「聞こえなかった?南室くんが好きって、言ったの。」 やはり、聞き間違いではなかったらしい。でも、なぜこのタイミングで言い出

【短編小説】好きな人と結婚したら、幸せになれると思ってました。

食べたいと思っていた高級果物店のパフェを前にして、私は大きく息をついた。向かい合って同じようにパフェを食べていた美奈の手が止まる。 「どうしたの?」 「ねぇ。美奈は今幸せ?」 私の質問に、彼女はキョトンとした顔をした。 「なに?突然。」 「私はさぁ、好きな人と結婚したら、幸せになれると思ってたんだよね。」 美奈は、私の言葉を聞きながら、またパフェに長いスプーンを突き刺した。 「礼羽は、今、幸せだと感じてないの?旦那さんのことは、結婚前、結構のろけられたと思うんだけど

【短編小説】結婚したからといって、いつまでも愛しているとは限らない。

「と思うんだ。どう思う?」 目の前の彼女は、一瞬キョトンとした顔をした後、フフフと笑い出した。 「そうかもね。」 「だろ?」 彼女は、俺を見ながら、日本酒を飲んだ。目尻はほんのりと赤いが、口調ははっきりしているから、それほど酔ってはいないのだろう。ただ、普段よりもよく笑っている。気分はいいのかもしれない。 「普段からそんなこと考えてたの?」 「いや、今、突然思い浮かんで。」 「好きになって、この人とずっと一緒にいたいと思って、結婚するんだろうけど。ずっと相手にときめく

【短編小説】私達が別れたのは、当然の帰結だった。

食卓に並べられた夕飯を見て、夫である透は、その瞳を輝かせる。今日はパートが休みだったから、普段よりは手が掛けられた夕飯だ。パートの日は、帰りがけに買ったスーパーの総菜が並ぶことも多いが、彼はそれに文句を言うことはないし、いつもありがたがって食べてくれる。 透と私は、5つ、歳が離れている。私は大学を卒業し、地元に帰って就職したが、職場での折り合いが悪く、1年ほどでその職場を辞めてしまった。正社員での職がなかなか見つからず、仕方なく、ロードサイドに面したチェーン店でもある本屋で

【短編小説】結婚したら恋愛をしてはいけないのでしょうか?

やっぱり、結婚した後に、人を好きになってはいけないのだろう。 でも、人を好きになるのって、コントロールできるものなのだろうか? コントロールできないから、不倫する人がいるんじゃないのかな。 ちなみに、不倫は、既婚者が配偶者以外の人と関係を持つことで、浮気は、交際相手や配偶者などがいるのに、他の人に気を引かれたり、好意を持って接触することを言うんだって。 つまり、結婚している私は、他の人を好きになったらそれは浮気で、関係を持ったら不倫ってことなのかな? 身近には、浮気や不倫

【短編】子どもは必要ないとお互い思っていないのであれば、さっさと結婚しろ。

同棲を始めて4年になる相手と、夕飯を食べて、2人ソファーに座って、ダラダラとレンタルしたブルーレイを見ている時。彼女がいつものように、結婚の話を持ち出してきた。ここ最近、週に一回くらいは話に出されている気がする。 「なぜそんなに焦って結婚しようとするの?」 不思議に思ってそう問いかけると、隣に座っていた彼女が、不服そうにこちらを見上げた。 「一緒に暮らしているし、結婚する必要性を感じないんだけど。」 「分かってないなぁ、あっくん。全然分かってない。」 彼女はやれやれと言わ