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短編小説Only

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普段は長編小説を書いていますが、気分転換に短編も書いています。でも、この頻度は気分転換の枠を超えている。 短編小説の数が多くなってきたので、シリーズ化している(別のマガジンに入っ…
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2023年1月の記事一覧

【短編小説】言葉にできないこの想い

彼女から手紙が来た。 内容は他愛のないもので、学生時代の思い出を語るのに大部分が費やされた後、最後の最後に、『また会いたいね。』と書いてあった。 仕事から帰ってきて、滅多にない封書の到着に驚き、差出人を見てさらに驚いた上、最後の一言を見て、その場に崩れ落ちそうになった。 まだ、スーツ姿のままの自分が、手紙を手に真っ直ぐにリビングに入ってきて、それを読んで動揺している様は、傍から見ればかなり滑稽なものだと思うが、一人暮らしの自分にそれを指摘する人もいないので、まぁ、いいんだ

【短編小説】忘れてしまうことの代償

ホームに来る電車を、他の待ち人と一緒に、ぼんやりと前に立っている人の背中を見ながら待っていた。こめかみに指を当てて、軽く押してみる。じんわりと頭痛がする。多分疲れのせいだろう。 新しい仕事を始めてから、数ヶ月。 正直、業務の全てをこなせてはいないが、来月頭に新しい人が職場に入ってくる関係で、私は教育係をしてくれていた人から離れて、独り立ちすることとなった。人がいないのだから仕方がない。分からなくなったら、他の人に聞くしかない。 そうは分かっているのに、プレッシャーからか、

【短編小説】100通のラブレター

「それで、お前はその相手の提案を受けたのか?」 「明確に受けるとは言ってないが、受けるつもりだ。」 周りが本棚に囲まれたブックカフェで、2人の男が、向かい合って座っている。ブックカフェだと、自然と会話の音量を下げてしまうのはなぜだろう。割と話している人は多いのだが、周りの本が吸収してくれるのか、この環境の為か、周りの会話はあまり気にならない。 2人が外で会って話をする時は、ブックカフェを選ぶことが多い。なぜなら、その内の1人が読書好きで、もう1人はあるネットのプラットホー

【短編小説】僕のマフラーには尻尾がある。

いい天気だよなぁ。 冬の3連休に、僕はお気に入りの鞄を持って、本屋に向かって歩いていた。 3連休だというのに、どこかに行く予定もない。 そういう時、僕は大抵本屋に行く。 本は読むのも好きだけど、眺めるのも大好きだ。 また、そんな本がたくさんある本屋も。図書館も。 本屋や図書館は、他の人と連れだっていくところではないだろう? だから、僕は一人で行く。 休みの日に一緒に過ごす人がいないのは確かだけど。 だが、今日は違った。 本屋に行ったら、友人の高瀬が、パソコン専門誌が並ん

【短編小説】神の手

【短編小説】人は神の手を持っている 人間は皆、神の手を持っている。 誰でも何かしら生み出すことができる。 小説然り、絵画然り、料理然り、数え上げたら切りがないが、とにかく創造することができるのだ。 そういう自分は、拙いながら、小説を書いている。本業ではなく、趣味の領域を超えることはないが。 「なんで、そんなことをいつまでも続けているんだ?」 数少ない私の友人には、何度もそのように尋ねられている。彼らは、自分が、人を、自然を、そして、世界を、この手一つで生み出すのを羨ましく

【随筆】【短編小説】テーマ:年賀状

【随筆】意識の変わった年賀状 初詣で、社に手を合わせながら、なぜか、去年、ここにいた自分のことを考えてしまう。 去年も同じように、近所の神社・お寺に来て、手を合わせた。その時はこれからの一年が『いい一年になりますように』と願ったはずだ。そして、おみくじを引いて、お守りを買って、既に日が落ちかけて、人通りの少ない道を歩いて帰ったはず。 それまでと同じ、初詣の光景。 だが、私の昨年は、初詣から数ヶ月後に病気が判明し、夏には入院して手術。その後、3か月経過をみて問題なかったの