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短編小説Only

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普段は長編小説を書いていますが、気分転換に短編も書いています。でも、この頻度は気分転換の枠を超えている。 短編小説の数が多くなってきたので、シリーズ化している(別のマガジンに入っ…
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2022年8月の記事一覧

【短編】君を繋ぎ止めるためならば ♯2000字のホラー

俺が彼女に会ったのは、自分が大学生の時だった。 俺と彼女は学部が違ったが、人数合わせで連れてこられたコンパで、同じように迷惑そうな様子を隠さず、会場の隅で飲み物を飲んでいる彼女に出会った。 色白で、綺麗に肩あたりで当てられた内巻きカールの髪。着ている服も女性らしいもので、色はパステルカラー。多分笑っていたらかなり人目を引いただろうに、その表情がその様相にそぐわなかった。 自分のように人数合わせで参加させられたのだろう。友達がいる様子もなく、一人でぼんやりと会場を眺めていた。

【短編】同じ景色を見た仲だから

僕はパソコンを操作する手の動きを止め、大きく息を吐いた。 時計の針は午前13時45分を差している。 そろそろ移動しないと、予約の時間に間に合わない。 僕はパソコンの電源を落として、ボディーバッグを手に取り、部屋を出た。 今日の天気は、快晴とはとてもいいがたい。 どんよりとした曇り空で、雨は降らないだろうが、青空はとても期待できない。ホテルのレセプションルームから送迎バスを呼んでもらい、ビーチ近くの停留所まで行く。季節外れのためか、バスに乗っている人は、僕の他には誰もいない。

【短編】子どもは必要ないとお互い思っていないのであれば、さっさと結婚しろ。

同棲を始めて4年になる相手と、夕飯を食べて、2人ソファーに座って、ダラダラとレンタルしたブルーレイを見ている時。彼女がいつものように、結婚の話を持ち出してきた。ここ最近、週に一回くらいは話に出されている気がする。 「なぜそんなに焦って結婚しようとするの?」 不思議に思ってそう問いかけると、隣に座っていた彼女が、不服そうにこちらを見上げた。 「一緒に暮らしているし、結婚する必要性を感じないんだけど。」 「分かってないなぁ、あっくん。全然分かってない。」 彼女はやれやれと言わ

【短編】感触ではなく温もりを

寝室のベッドの上に、丸太のような形のものが転がっているのを見つけた。 「これ何?」 「抱き枕。」 恋人がそう言って、抱き枕を取り上げる。胴の部分が長く、よくよく見ると、猫の形を模しているらしい。 「見て、この顔。」 そう言って、恋人はその抱き枕の猫の顔をこちらに示す。眠そうな、ふてぶてしい感じの猫の顔が付いている。模様を見る限り三毛猫か。ということは、メスか。三毛猫のオスは、滅多に出現しないというし。 「颯真に似てるでしょ?」 「似てねぇし。」 「似てるよ。そっくり。」

【短編】この世界に期待はしていない。

死にたかったかと問われたら、嘘っぽいなと思いつつ、違うと答える。 死にたくないのかと問われたら、口の端が上がるのを感じながら、どうだろうと答える。 「本当は、ちょっと残念だと思っているんだよね。」 「何が?」 「死ねなかったこと。」 目の前で彼女が、のほほんと口にする内容が、大変物騒だった。相手は、私の顔を見て、慌てたように言葉を続ける。 「そんな顔しないでよ。」 「こっちは、集中治療室に入ったって聞いて心配してたのに。」 「う~ん。でも、もう十分生きたなって思ったりす

【連作短編】僕は事あるごとに君のことを考えていた。Θ2

高校に入って、友達とカラオケに行くことが多くなった。私はカラオケが好きだ。狭い空間ではあるが、マイクを使って、自分の好きな歌を歌えるのはとても楽しい。 さすがに一人で来ることはなかったけど、友達もカラオケ好きだし、学割も効く。カフェにいるよりも安くつく。スマホにアプリを入れようかとも思ったけど、自分の部屋で歌っていたら、家族に聞かれてしまうので、諦めた。 その日も駅近くのカラオケ店で2時間歌い、もう帰ろうという空気が漂い始めた頃。最後のフリードリンクを取りに行った私の耳に