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特殊設定恋愛小説

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「特殊設定」を取り入れた恋愛小説。 少し不思議な恋愛小説をまとめてみました。
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2022年9月の記事一覧

【短編小説】それは困りますね。♯一つの願いを叶える者

私の夫の帰りは遅い。 私は夕食を作って、彼の帰りを待つ。時間はいつも大きく変わらないので、職場からどこにも寄らず、真っ直ぐ帰ってきているようだ。 職場の飲み会などの誘いも、付き合い以外のものは、今は極力私を理由に断っているらしい。家に帰って、私が作った夕食を美味しそうに食べてくれるのを見ると、私の口元も緩んでしまう。 でも、私は夫の心の中に、一人の女性がいることを知っている。 その女性の名前は美空という。 彼の大学時代の恋人だったらしい。もちろん、本人にお会いしたことはな

【短編小説】本当にそれでいいのですか?♯一つの願いを叶える者

職場の入っているオフィスビルを出て、最寄り駅までの国道横の道を歩く。国道の車通りは激しい。どうせ、まっすぐ帰っても、少し寄り道しても、帰る時間はそれほど変わらない。家では、妻が夕食を準備して、帰りを待っていることは分かっていたが、僕は、最寄り駅への地下への階段の脇を通り抜けて、その先の歩道橋を登った。 歩道橋の、国道のちょうど中央辺りで、足を止めて、下の国道を見つめた。 光の川だ。色とりどりの光が、国道を走っていく。 どれくらい、ぼうっとその光の川を眺めていただろうか。ふと

【短編小説】ずっと、一緒にいよう。

私は、幼い頃から身体が弱く、しょっちゅう熱を出していた。幼稚園は休んでいる日数の方が多く、定期的に病院に通い、場合によっては長期入院もしていた。病院のベッドから、外の青空を見上げる度に、私はいつ健康になれるのかと、ため息をついていた。 病院にいる時間が長くなるにつれ、医師や看護師さんとも顔見知りになっていた。寝てばかりいると、起きられなくなると言われ、点滴バッグ等をかける点滴スタンドを押しながら、病院内を歩き回っていることが多かった。そして、私は病院に来ている同い年の男の子

【短編小説】この世界は全て塗りつぶされてしまうだろう。

朝起きて、まずは部屋の東に向いている窓にかかったカーテンを開く。目の前の曇りガラス越しでも、朝日の日差しを感じる。 その後、窓を開けて、外の新鮮な空気を取り込む。 目を閉じて、外の空気を大きく吸った後、僕の視界に飛び込んできたものは、色とりどりに塗りつぶされた景色だった。 また、範囲が広がってきてるかも。 長い間見ていても、今の時間では塗りつぶし範囲は広がらない。僕は元のように窓を閉じ、朝の支度をはじめた。 着替えて、朝食を食べ、念のためバッグの中を確認する。 まぁ、忘れ