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【漫画原作】君をなくした夢喰い獏夜【悪堕ち男子×戦う男子】 第3話

第3話

■夢の世界:朔夜の夢

動揺して動けない朔夜。
朔夜の頬に触れて微笑むヨウ。

ヨウ「ふふ、とても美味しそう」

ヨウの口から八重歯が覗き見え、息を飲む朔夜。

朔夜「お前…兄貴じゃないのか?」

ヨウは不思議そうに首を傾げる。

ヨウ「え? アニキ? ぼくに名前はないよ」

穏やかな笑顔を見せるヨウ。

ヨウ「でも、きみがそう呼びたいなら、アニキと呼んでもいいよ?」
朔夜「っ!」
ヨウ「なぜか心がふわふわとする気がするな。ふふ、面白いね」
朔夜(違う、こいつは兄貴じゃないッ…! 兄貴はこんなこと言わない! これは…夢だ!)

ヨウの手を振り払い、距離を取る朔夜。
名残惜しそうに朔夜を見つめるヨウに、朔夜は気まずい表情をしながらも怒鳴る。

朔夜「お前はなんなんだ? これは俺の夢だろう? 兄貴に似た別の何かなんて…冗談じゃない! 俺に何を見せようって言うんだ!」
ヨウ「なにも見せていないよ? ただぼくは、きみが見る夢に誘わてやってきただけだからね」
朔夜「嘘をつけ! 通りすがりなら、お前はなんで兄貴の姿をしているんだ」
ヨウ「さあ。それは分からないな。もしかしたら、ぼくがきみに引きつけられた理由と関係するかもしれないけれど、ぼくには分からないよ」
朔夜「じゃあ、なんのために俺のところにやってきた⁉」
ヨウ「ぼくたちは餓えているんだよ。夢がほしくてたまらない。ぼくたちはひどく空っぽなのに、きみたちはとても満たされた夢を持つよね」

陽太の苦笑する姿と、ヨウが悲しそうに微笑む姿がかぶり、怯む朔夜。

ヨウ「羨ましいな」
朔夜「…!」
ヨウ「ぼくたちだって、満たされた世界に漂いながら、いろんな夢を貪ってみたいんだ」
ヨウ「だからきみのその夢を、ぼくに分けてくれるかな?」
朔夜「…お前…なんでそんなに、兄貴に似てるんだよ」
ヨウ「ぼくはきみのお兄さんを知らないよ。でも、きみが夢をわけてくれたら知ることができるかもしれないね?」
朔夜「どういうことだ?」
ヨウ「ぼくがきみの夢を食べたら…ぼくの中できみの夢は生き続けるんだよ。だから、少なくとも、きみのお兄さんになってあげることはできるかな?」
朔夜「俺は兄貴に戻ってきて欲しいんだ…! 兄貴じゃない、別人の兄が欲しいわけじゃない!」
ヨウ「そうなんだね? 置いて行かれちゃったんだ?」
朔夜「違う! 兄貴は絶対に戻ってくる! だから置いて行かれんたじゃない!」

朔夜の頬を両手で挟み、視線を合わせるヨウ。

ヨウ「でもきみはいま、ひとりぼっちだよね? 本当は寂しいんでしょう?」

ヨウから視線を逸らして涙をこらえる朔夜。

朔夜「…! そんなことは…っ」

ヨウは幼い子どもをあやすように朔夜を抱きしめ、耳元で囁く。
優しく抱きしめられた朔夜は、ヨウに陽太を重ねるように涙を流した。

ヨウ「大丈夫だよ。きみが泣くくらいに悲しい夢は、ぼくが全部食べてあげるから」
朔夜「兄貴との夢は、悲しい夢なんかじゃない…」
ヨウ「でも、きみの夢を食べさせてくれれば、きみはさみしくなくなるよ? それに、ぼくがお兄さんになってあげられるからね」
朔夜「…! なんでお前っ…兄貴じゃ…ないんだよ…!」

朔夜の耳をかじろうとするヨウ。
その瞬間、大声が響く。

黒鉄「目を覚ませバカ者ッ‼ 喰われて死にたいのかッ‼」
朔夜「…えッ⁉」

朔夜が声で我に返ると、ヨウの腕を矢が掠る。

ヨウ「いっ⁉ いったぁ…」

次いで炎が迫り、ヨウと朔夜がそれを避ける。

ヨウ「って、わわっ!」
朔夜「なんだ、これ⁉」

朔夜が声のした方向を振り返る。
黒衣姿の黒鉄が魔導書を、黒袴姿の白瀧が弓を構えて立っていた。二人の隣には大型の虎が行儀よく座っている。
黒鉄がヨウを指さして叫ぶ。

黒鉄「寂しくなくなる? バカを言うな! キサマらが夢を喰らい尽くした者たちは、皆等しく死を迎えている。例外なくな!」
黒鉄「それを、問題ないのだとのたまうのならば、キサマらに夢を得る資格など一片の余地もない! 我が力を以って、一掃してくれる!」
朔夜「死ぬ…だって?」
白瀧「当然だと思いますよ。だって夢がなくなったら、僕らはどう生きて行けば良いんですか? 僕たちに抜け殻のように生きろとでも?」

朔夜は最後に現実で見た陽太を思い出し、呟く。

朔夜「抜け殻だって…? まさ…か?」
ヨウ「ぼくだってお腹が空いているんだよ! あと少しだったのに! どうして邪魔をするの⁉」
黒鉄「誕生して間もない獏夜びゃくや、か」
白瀧「やや白よりの黒髪…。何人か喰っちゃったんじゃないですか?」
ヨウ「え? そうだね。でもこれまで食べた夢は、あまり美味しくはなかったな」
ヨウ「でもね、この子はこれまで食べたどの夢よりも、とっても美味しそうなんだ」
白瀧「そう言われて僕たちが生贄を差し出すとでも思ったんですか? そうはさせないですよ」
黒鉄「奴は獏夜の中でも赤子当然…。叩き潰すなら今が好機」
白瀧「そこのあなた! ぼさっとしていないで、早くこっちに来てください!」
朔夜「あ、ああ!」

黒鉄&白瀧のほうへ走る朔夜。ヨウがそんな朔夜を追いかける。

ヨウ「ダメだよ! 折角のご馳走を逃がすわけにはいかないんだから」
黒鉄「させるかと言ったんだ‼」

黒鉄が魔導書を勢いよく開き、呪文を口にする。

黒鉄「我が切り開くは、閉ざされし過去。いまこそ封じられし歴史を紐解こう。今より、創生の年代記アカシックレコード、第一五五八頁の印を解く…」
白瀧「あー! もうッ! だから、勢いあるのに詠唱長いんだって言ってるじゃないですか!」

白瀧が苛立ちを口にしながら、手にしていた弓に矢をつがえて静かに弦を引き、隣に控えていた虎に命じる。

白瀧「きましょう、トラヒコ! 僕とお前の夢を壊そうとする、憎き相手を打ち滅ぼすために!」
虎「フーッ! ニャー‼」
朔夜「なんで猫の鳴き声なんだよ!」

外見に似つかわしくない鳴き声をあげる虎に、あやうく脱力しそうになる朔夜。
白瀧がヨウへ矢を放つと、ひゅんっと矢がヨウの耳のそばをかすめる。

ヨウ「っ、あぶないね」

ようやく二人のもとへ辿り着いた朔夜が振り返ると、ヨウが鋭く伸ばした爪で虎の攻撃に応戦している。
陽太の姿をしながらも陽太に不釣り合いな姿を見せるヨウに、朔夜は不快感を感じたがらも、白瀧に問いかけた。

朔夜「…! これはどういうことだ⁉ ただの夢じゃないのか? 死ぬってどういうことだ⁉」
白瀧「説明はあとです!」

爪の引っ掻きを同じく爪で弾き返すヨウ。

虎「ンニャッ‼」
ヨウ「こういうときじゃなければ、猫とあそぶのも悪くないんだけど…」

虎は次に猫パンチを繰り広げるが、ヨウはどれも不満そうにひらりとかわす。

虎「ニャニャニャニャニャーッ!」
ヨウ「でもいまほしいのは、猫を飼う子の夢じゃないんだよ?」
白瀧「ほしいってねだられても、あげませんよッ! トラヒコ‼」

猫パンチから尻尾による攻撃にかえる虎。

虎「ニャ!」

それを避けようとしたヨウが、白瀧の矢に手を射られて怯む。

ヨウ「あッ!」

虎は容赦なく、怯んでいるヨウの右腕に噛みついた。

ヨウ「ぐっ! あああッ‼ 痛い! やめて!」

苦悶するヨウの顔が、陽太の顔と被って見える朔夜。

ヨウ「ぼくはまだ、消えたくない…!」
朔夜「あ、兄貴…?」

朔夜へと手を伸ばすヨウに、朔夜はびくっと震える。

ヨウ「たすけ…て…!」
朔夜(いや、違う! あれは兄貴じゃない…! でも…!)

詠唱を続けていた黒鉄が高らかに叫ぶ。

黒鉄「――刻は、満ちた!」

ヨウの腕に必死に喰らいついていた虎が口を離して、退散する。
黒鉄が本を支えている手とは反対の人差し指で、トン…と開いたページを叩く。

黒鉄「顕現せよ!」
朔夜「…!」

開いた本のページから禍々しい鮮血のような水がボコボコと湧き上がっていく。
紙が濡れた様子もなく勢いよく吹き出し始めた血は、やがて渦を巻き始める大きな形を得る。
それがヨウを目掛けて襲い掛かろうとしたとき、朔夜は叫び声をあげて黒鉄の行動を阻止しようとした。

朔夜「や、やめろ! 兄貴ーーーー‼」

(第3話・了/続く…)

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