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『九十歳。何がめでたい』

私は映画のネタバレをされても構わない人種である。原作があるものはできる限り読むし、『月刊シナリオ』に脚本が掲載されていれば、読んでから見たいと思うのだ。

だが、人生にネタバレはない。「一寸先は闇」という諺の通りだ。特に、最近の時代の移り変わりは激しい、ように思われる。確かに正しい面もある。例えばキャリアにおいては、1つの会社にしがみつく人を「化石」と思う人もいるだろう。実際そのような価値観の登場人物もいる。

一方で佐藤愛子さんが思春期を過ごした戦中戦後に目を向けてみよう。日本は戦争に勝つと信じて国のために命を賭け、散らした人もいた。それが突然、敗戦を宣言され、軍国主義は廃された。社会の仕組みそのものが大きく変わったのだ、と想像する。

ところで、脚本を読みたいと思うのは、自分の勉強のため以外にも理由がある。このシーン追加されたな、逆にここはカットされたな、あのセリフはアドリブだろうか? などと想像して楽しむことができるからだ。例えば、刷り上がった単行本を吉川が愛子に渡すものの突き返されるシーン。

あれは台本にはなかった。いきなり2人で始まって、しかも「いつまで続くんだ?」というくらいずっとやってました。それがおもしろくて(笑)。

前田哲 監督が語る 観た人が幸せを感じられることを意識して作り上げた『九十歳。何がめでたい』

「繰り返しが笑いを生む」効果が明白である。他の追加されたシーンも、愛子さんのチャーミングな面がより際立っていたように思う。鑑賞済みの方でも一読の価値あり!

中でも好きなセリフがある。

「本当に今の奴らときたら。自分の足で情報を取ろうともせずに何でもかんでもスマホに頼って」

吉川のセリフ

映画も、少し待てばネットで見られる時代である。映画1回分以下の金額で見放題というサービスもある。暗闇の中で、スマホもいじれず、リアルタイムで感想を共有できず、ある意味窮屈なところに縛られる意味などないという考えも理解できる。だが、「XXXXX」というセリフで笑いが起きたことはシナリオだけを見ていても、1人で見ていても体験できない(大島さんは狙って書いたのかもしれないが)。

イベントの配信はもちろんコロナ前もあったが、配信やアーカイブの存在はとてもありがたく感じている。仕事などの予定と重なっていたり、電車が止まってしまったり、急に体調悪くなったりしたために行けなくなってしまった時の配信はまさに救いの神の如し。しかしながら、現地の空気感は液晶に隔てられてしまうのが悲しい。どちらにも良さがある。どっちかじゃなくて、どっちもだ。両方を使いこなすことができれば提供側も受け取る側もハッピーではないかと、現地参加も配信視聴も楽しんできた身として思う。

最後に、音楽について。富貴晴美さんの曲がとても素晴らしい。特に、犬のハチとの思い出を(原稿で)語るシーンは、内容も相まって非常に心を打つものだった。これももちろん脚本だけではわからない。公開されてのお楽しみである。

ちなみに、今回もHello Movieの音声ガイドサービスを利用した。

夏の連続投稿チャレンジにかこつけてタグをつけたが、いつ見ても面白い映画である。

#夏に観たい映画
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#読書感想文

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