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2014① 改善の日々(株式会社藤大30年史)

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 社名が変わったからといって、いきなりガラッと業務が変わるわけではない。ハルコたちは変わらず改善の日々を続けていた。
 藤大(旧フジテックス)には、創業時から大切にしている方針があった。
「お客様のご要望にお応えする」
 内職を引き受けた時も、会社にした時も、工場を建てた時も、すべては取引先からの期待に応えるためだった。その想いは理念にもしっかり込められていた。
『人がすべてと考え、人を大切に一人ひとりに思いやりを持って向き合います。』

 業務の改善も、お客様の要望に合わせていけばうまくいく。ハルコたちは納品や来訪のたびに取引先とのコミュニケーションを重視した。だから取引先の進展に合わせて新たな要望が出てくるのは必然だった。
「藤大さんとこでも、自動検査機できひんやろか?」
 創業当初から主要な取引先だったPanasonic(旧東洋電波)から、新たな生産体制に移るための要望が舞い込んできた。

 検査業務は、機械による自動検査を経て目視による精密検査に至る。それまで藤大は精密検査だけを請け負っていた。しかしそのままでは自動検査を他の会社へ出さなくてはならない。なるべく一社で引き受けた方が、検査工程はシンプルになる。Panasonicがグローバル競争で負けないためにも、スピードや効率の改善は重要だった。

「わかりました。うちで全部できるようにします」
 ハルコは二つ返事で答えた。まず答えてから、どうすればいいか考える。あるいは教えてもらう。ハルコはずっとそうやって要望に応えてきた。
 自動検査機の導入には重要な条件があった。それは「クリーンルーム」を設置することだ。人の目視による検査と違って、検査機は微量の埃一つすらエラーとして検知してしまう。それを防ぐには、完全に埃をシャットアウトできる環境を用意する必要があった。そのためには、太田工場自体のレイアウトを変更しなければならなかった。

 ハルコたちはまず、ワンフロアで使っていた一階にクリーンルームを設置することにした。三分の一ほどの大きさで間仕切りを作り、そこに埃を出さない専用の壁素材を使って部屋を設けた。一昨年の教訓を活かして、溶接工事は厳禁。工夫しながらクリーンルームの設置を進めた。
 作業服は埃を出さない特別な素材のものを調達。クリーンルーム入室前に埃を除去するエアシャワーも設置。壁も服も人も、埃を一切持ち込まない万全の体制を整備した。自動検査機を取り扱うための研修も始まり、新たな派遣社員も雇用した。
 これらの挑戦を機に、社名変更から次のステージへ進むための土台が着実に固まっていった。これまでパート従業員を中心に進められてきた藤大の仕事に、少しずつ変化が見え始めていた。

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(制作元:じゅくちょう)


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