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筒井康隆『偽文士日碌』(角川文庫)

 2008年から2013年の筒井康隆の日記をまとめた文庫。
 二つの大きな感想というか感銘を得た。

 一つめ。個人的な感想でもあるが、自分が筒井康隆の日記文学を読んでいた十代、その内容は戦後すぐの思い出や、日本SF界の黎明期のエピソード、人気作家になってからの日々と、少年の自分にとっては、そこにつづられている作家・筒井康隆の日常は、遠い世界のことのようだった。
 しかしこの本に収録されている日常は08年から13年、出てくる話題が「ips細胞」「新型インフルエンザ」「尖閣諸島」「鳩山政権」「震災」など、自分も体験したものが当然多くあり、おお、時を経て筒井康隆はわれらの同時代人!
 二つめ。出てくる「登場人物」に井上ひさしさん、大江健三郎さんなどがいらっしゃり、ああ、みなさんまだご存命だった時期で、胸がしくしく痛むような、それでもなお懐かしいような不思議な感動があり、ああ、人の日記を読むということは、タイムマシンに乗るような感覚なんだなあと初めて気がついた。

 最後に、日記を読みながら「芸能人とテレビ番組で共演して、ベンツで好きなところに旅行して、グリーン車やハイヤーで移動して、文壇パーティに参加して、毎日のようにうまい物を食べていい酒を呑んで、はっ、いいご身分だな!」と感じる方は本書は読まないほうがいいと思う。筒井康隆はずいぶん前からそうやって「読者を挑発する」ことが大好きなので。思う壺にはまります。


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