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凄すぎて何から始めたら良いのか… 〜伊那食品工業を訪問して #5〜

伊那食品工業への訪問記。これまでいくつか記事を書いてきましたが、恐らく今回が最後となります。

今回の伊那食品工業の視察会に参加したのは、およそ15名程度でした。

私のような大企業からの参加者は私くらいで、他の参加者の方々は、中小・中堅企業の経営者の方や、経営企画系の職種の方が多かったです。

訪問2日目、全ての行程を終えた直後、隣に座っていた方と目が合いました。
そのとき真っ先に口から出たのは、「凄すぎて、正直何から始めたら良いか判らないですね…」でした。

その方は、ある中小企業の社長の方。私のような企業の末端社員とは全く異なり経営の立場の方ですが、抱いた感想は概ね同じだったようです。

まず、伊那食品工業の経営の目的が世の中の多くの企業とは大きく異なります。ここまで「社員の幸せ」を軸に据え、公言している企業はなかなか他にはありません。

しかもそれを50年以上も実践し続けている。

どうしてもそうそう簡単に真似できないなと思ってしまう訳です。

そしてもう一つ、簡単に真似できないなと思ってしまうのは、繰り出される全ての施策が「社員の幸せ」を軸として有機的に結びついており、どれか施策をひとつを切り取って導入したとしてもそれだけでは全く意味が無いんだろうなと思わせるところにあります。

例えば朝の清掃活動。

これだけをある日突然、社長が「やるぞ」と言って導入したとしても、社員はやらされ感満載の中、望むことになるのは想像に難くありません。

また、年功序列や終身雇用の人事制度。

もはや時代遅れと悪者扱いされているこれら制度を再び人事制度の軸に据える決断をする経営者に対しては、逆に社員から疑問の声が上がりそうです。

つまり数々の施策は「社員の幸せ」という目的を達成するために編み出された「手段」でしかありません。

そして、経営の目的を「社員の幸せ」にするという決断もまた、株主至上主義に傾きすぎてしまった現代の資本主義経済の中では、そうそう容易くできることではありません。

なぜなら、経営の目的を「社員の幸せ」にすることは、そしてそれを徹底的に推進することは、すなわち売上や利益を追求することを捨てることになるからです。

※ 因みに伊那食品工業は、非上場かつ無借金経営です。だからこそこういった独自の経営スタイルを貫けるという側面もあんだろうなと感じました。

私が伊那食品工業のことを知ったのは、坂本光司さんのベストセラーになった著書、『日本で一番大切にしたい会社』でした。

その坂本光司さんは、ある講義でこんなことを仰っていました。

異常が長く続くと異常があたかも正常に見える。
異常と比較すると正常があたかも異常に見える。

坂本光司さん

我々の価値観は、異常と言われてもおかしくない状態になってしまっているのかもしれません。

長期利益よりも短期利益。パーパスよりも売上や利益重視。人(社員)が売上や利益のための手段とされる。

こんな状況の中、モヤモヤを感じながらも、そういうものだ、仕方がないと諦め働き続けてしまっている我々は異常な価値観形成に加担してしまっているのと同じかもしれません。

何が正常で、何が異常なのか。

その判断は人それぞれで異なるでしょう。

しかし、何を大切にして企業経営を行うか、そして何を大切にして生きるのか、ついては原点に立ち返って考え直す必要があるかもしれません。

もし、世の中の多くの企業が売上や利益を中目的とした経営を行い、それにより企業も社員も成長し、成果も上がり、そして社員が皆幸せに働き暮らして行けるのであれば、考え直す必要など無いのかもしれません。

しかし、経済が停滞している日本の現状を見ると、そしてそこで働く社員の多くが活き活きと(またはのびのびと)働けていない現状を見ると、やはり伊那食品工業のような経営が一番望ましい姿のではないだろうか、と思うのです。

それは、実際にその場に足を運びこの目で確かめてきた今だから、なおさらそう思うのです。

経営者でもなんでもない我々にできることは少ないかもしれませんが、まず常識(と思っていること)を疑い、思考停止状態から脱すること。こういった企業がこの世に存在していることを知ること。そして感じたことを声に出して誰かに伝えてみること。それくらいなら誰にでもできることです。

そんな人をひとりでも増やすために、私なりにできる事をやっていこうと思います。






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