経営の目的に売上や利益を掲げない 〜伊那食品工業を訪問して #2〜
前回に引き続き、伊那食品工業のことを書いてみたいと思います。
伊那食品工業は、既に公言されている通り、「社員の幸せ」を掲げて経営しています。これは伊那食品のホームページにも明記されています。
伊那食品工業と同じように、社員の幸せを謳ったり、社員は家族と述べる会社や経営者は少なくありません。
しかし、伊那食品工業を訪問し、その実践している様を実際に目の当たりにすると、世間で語られるそれら多くの言葉は空虚な響きに聞こえてきます(つまり口だけ)。
結局のところ、多くの企業における経営の目的は、実態として売上や利益の獲得になっています。片やパーパス経営だと言っておきながらも、本音のところでは売上や利益の獲得を最優先に経営している。
にも拘らず、とってつけたように「社員の幸せ」を語るのは、世の中の風潮がそちらに流れつつあるのを感じているからでしょう。つまり本心では無いわけです。
しかしながら、売上や利益を目標にすら掲げない経営というのは、ビジネス(というか商売)に関わる人からすると、大きな違和感を覚えるのも事実では無いでしょうか。
それで経営が成り立つのだろうか、と。
でも伊那食品工業では実践されているのです。しかも「年輪経営」と表されるとおり、毎年着実に売上も利益も上げている・・・これは奇跡でも何でもなく、経営(マネジメント)の結果なのです。
ビジネスの世界にかかわらず、目的が異なれば、人の行動も変わります。
痩せたいと本気で思ったら、食事の量を減らしたり運動したりします。
痩せたいと言っておきながら暴飲暴食しているのは、そう本気で思っていないからです。
多くの企業が言っていることとやっていることが違うのは、本気ではないからでしょう。
伊那食品工業に訪問して感じたのは、正に「本気度」です。
本気で「社員の幸せ」を目的に掲げて経営している。
この会社では、経営計画も立てないし、売上や利益と言った数値目標も掲げないそうです。
それはなぜか。
掲げたところで「そられは全てウソになってしまう」からだと塚越社長は言い切っていました。
この話を聞いて思いました。
そうか、多くの会社員は、経営者のついた嘘(或いは見栄)を強引に真実に変える為に働かされていることになるな、と。
これでは社員は幸せを感じることは無いでしょう。
一方で、伊那食品工業では、社員ひとりひとりが、毎年目標を自ら掲げて活動しているという話もありました。
例えば、私が訪問した際に質問に答えていただいた営業職の社員の方は、新規取引先の開拓を目標に掲げていると言っていました。
ここで重要なのは、人から(会社から)目標を押し付けられるのではなく、自ら主体的に目標を決めることだと思うのです。
これは正にドラッカーの言うところの「Management by Objectives and Self Control」です。
ポイントは、「and Self Control」を含めたMBOを実践しているところです。
つまり痩せたいと思うのは自分であって、他者ではない。
あと〇kg痩せようと目標を立てるのは自分であって他者ではない。
仮に他者から一方的に「あと〇kg痩せろ」と言われても、主体的に取り組むのはかなり難しいでしょう。
しかしほとんどの企業ではその難しいことをやろうと(やらせようと)している。
また、他者から与えられた目標を達成したときよりも、自ら立てた目標を達成したときの方が喜びは大きくなります。そしてその目標達成の為に、自ら主体的に試行錯誤を繰り返すようにもなります。
そういった主体的に行動する社員の集積が、結果的に会社の着実な成長にもつながる訳ですね。
50年近くも増収増益を続けることができるのは「社員の幸せ」を目的に掲げた経営を実践している結果なのであり、決して売上や利益を目的に掲げた結果では無いのです。
なお、塚越寛最高顧問は「利益はうんち」とまで言っていますので、で最後にご紹介しておきます。
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