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ありきたりな日常が愛おしくなる/住野よる「麦本三歩の好きなもの 第一集」

折返し地点なんてきっとない。
今日も前に進んでいなくちゃ、今日これから起こる楽しいことを味わえない。
(「麦本三歩は今日が好き」より)

「麦本三歩の好きなもの 第一集」は、住野よるさんの初のシリーズ小説です。
住野よるさんといえば、デビュー作の「君の膵臓をたべたい」がベストセラーになっており、若い世代を中心に大人気な作家さんです。

今作は、図書館司書の麦本三歩のなんでもない日常を描いた、ほっこりあったかな短編集。
三歩はおっちょこちょいで、職場でもいつも先輩に怒られてばかり。けれど、美味しい物を食べればたちまち元気になり、休みの日は本を読んでおひとりさまの時間を満喫します。
大きな事件も、派手な展開もないけれど、淡々と過ぎる毎日の幸せを噛み締めることができる小説です。

*こんな人におすすめ

①あたたかな日常小説が好きな人
②ほっこり系の小説で癒されたい人
③少し人生に疲れてきた人
④マイナス思考を直したい人

それでは、主人公の三歩の魅力と、小説の魅力を紹介していきたいと思います、ぴょん!

*とにかく前向き思考

三歩は、職場の大学図書館で、しょっちゅうミスをして先輩に怒られます。けれど、美味しい物を食べればたちまち元通り。失敗をしても引きずらず、すぐに前を向いて仕事を頑張ります。
冬の朝、布団から出るのが辛くても、あらかじめ朝ご飯用に買っておいたチーズ蒸しパンを思い浮かべて起きたり。

三歩の、この能天気にも思える前向き思考は、読んでいて癒されます。そんな三歩なので、周囲の人たちもなんだかんだ言って三歩の味方になってくれます。

恐るべし、この愛され力。回復力の早さ。是非見習いたいと思いました。

*小さな幸せが散りばめられた小説

三歩の日常は、ありきたりでありながら小さな幸せが溢れています。
三歩を幸せな気分にするのは、スーパーで売っているスイーツや、チーズ蒸しパン、ティーバッグの紅茶、コンビニの鮭おにぎり(他、食べ物)。

1Kの部屋でごろごろして、ご飯を食べて、たまに散歩をして、本を読んで、それだけで幸せ。
特別な物などない当たり前の日常が当たり前にゆっくり流れていくその様子が、軽妙洒脱に綴られています。

三歩を見ていると、贅沢だけが幸せになる道ではないのだな、と思います。年齢を重ねるにつれて、だんだんと幸せに対してお金を注ぎ込み、いつしかそれがステータスのようにもなっていく気がします。安いコンビニスイーツひとつ、たい焼きひとつで、三歩のように幸せを満喫できる純粋さや幼心を、時には思い出したいなと思いました。

冒頭で三歩が食べる鮭のおにぎりがあまりにも美味しそうで、こうさぎ、読了後は即刻コンビニに走って、迷わず鮭おにぎりを買ってきました。

この小説を読み終えた頃には、あなたも麦本三歩のファンになっていること間違いなしです。穏やかな休日の昼下がり、ベッドでごろごろしながら、ページの向こうの三歩に会いに行ってはいかがでしょうか、ぴょん!


(2021年3月26日にはてなブログにて公開した記事を、一部加筆修正しました。)

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