この声を、聴いてくれる誰かが必ずいる/町田そのこ「52ヘルツのクジラたち」
「52ヘルツのクジラたち」は、町田そのこさんの2021年本屋大賞受賞作です。児童虐待をテーマにしており、その寂しさ、苦しさ、絶望を、淡々と描いています。
幼い頃から家族に搾取され、愛情を知らずに育っていた貴瑚。とある理由から亡き祖母が住んでいた家に引っ越して来ますが、田舎の「狭さ」に早くも辟易しています。そんなある日、彼女は、親に虐待されている一人の少年に出会います。痛いほどの孤独感から、他人からの愛を欲する「52ヘルツの声をもつ彼ら」の、ひとすじの光を見出だすための物語です。
この本はこんな人におすすめ
①児童虐待について知りたい
②重い物語も読める
③52ヘルツのクジラって何?と疑問に思った
それでは、この作品の魅力を紹介していきたいと思います、ぴょん!
*「52ヘルツのクジラ」とは?
「52ヘルツのクジラ」は、実在するクジラです。普通のクジラは、10ヘルツから40ヘルツほどの声で鳴くのですが、このクジラは、「52ヘルツ」の声で鳴きます。その声は他のクジラより高いため、どんなに近くにいる仲間にも聞こえません。このことから、「52ヘルツのクジラ」は、別名「世界でもっとも孤独なクジラ」とも言われています。
この「52ヘルツのクジラ」が、果たして何を意味するのか、是非本作を読んで確かめてみて下さい。
*児童虐待がテーマの小説
主人公の貴瑚は、幼い頃から母と義理の父に虐待を受けていました。そして、出会った少年もまた、母親から虐待を受けています。最近はニュースなどで、よく児童虐待が取り上げられ、痛ましい事件も後を立ちません。本書の中でも、思わず目を覆いたくなるようなリアルな児童虐待が描かれています。重い小説なので、私は心が元気な時に読むことをおすすめします。
この本を読んでいる中で私は、「児童虐待が発覚するのは、手遅れになってからでは遅い」のだと思いました。また、児童虐待だけでなく、数々の重いテーマが見え隠れする物語になっています。淡々としていますが、今の世の中を鋭く切り取る、社会派小説でもあると思いました。
*過ちは取り返せない
本作は、物語が進んでいくごとに、だんだんと貴瑚の過去も明らかになっていきます。徐々に全貌が見えてくる貴瑚の過去と、もう取り返しのつかない過ち。過去と今が交錯し、救いを求めているばかりだった貴瑚が、ひとりの少年を助けようと動き出します。誰にも声を届けられず、「52ヘルツの声」で泣いていた貴瑚が、少年の「52ヘルツの声」に耳を傾ける。そんな、魂と魂が寄り添い合うような関係も見所です。
余談ですが、「52ヘルツのクジラ」について色々と調べていたら、こんな歌を見つけました。寂寥感の中にほのかな爽やかさが漂うような曲です。「52ヘルツのクジラたち」と合わせて、是非聴いてみて下さい。
私は、分厚い灰色の雲の隙間から、ひとすじの陽の光が射し込むような曲だと感じました。
児童虐待に真正面から向き合う本屋大賞受賞作。誰かの声に耳を傾け、寄り添うことの大切さを教えてくれる物語です。行間に漂う寂寥感と、ラストのやわらかな希望の光を、是非感じてみて下さい、ぴょん!
(2021年4月25日にはてなブログで公開した記事を、一部加筆修正しました。)
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