はじまりはOASIS(オエイシス)

 20歳をさまよいだしてから洋楽を中心として音楽を聴くようになった。ちょうどそのころ、大学の友人とライブ出演前提のバンドを組んだことがきっかけであった。僕以外のメンバーは音楽に詳しく、彼らは、音楽好きを公言するのであれば絶対に通っているであろうミュージシャンたちを、大学生になるまでに聴いてしまっているのであった。

 そんな彼らに対して僕の方は日本のミュージシャンしか聴いてこなかった。ビートルズやローリングストーンズのような有名な大御所さんたちを知ってはいるけれど、自分から率先して聴こうと思ったことはなかった。何かメンズ・ノンノといったファッション誌やポパイのようなマガジンハウス系のカルチャー誌を開けば、ニルヴァーナやセックス・ピストルズが頻繁に顔をのぞかせているけれど、それらは単なるファッションアイコンに過ぎなかった。

 それだから、ラモーンズやポリス、グリーンデイにレディオヘッドといったミュージシャンの、それも「通(つう)」にとっては定番の曲たちをライブで披露しようと他の三人が盛り上がっているなか、僕はひとり蚊帳の外にいた。「何だよ、これも聴いたことないのかよ」という扱いのなかで練習のためにしぶしぶそれらの曲を聴いていたが、耳が慣れるには時間を要した。だって、それまで聴いたことのない音づくりであり、英歌詞という全く意味のとれない歌が流れてくるのだから(もっとも、今となってはそれらミュージシャンたちの音楽は好きだし、血肉化している)。

 晴れて新宿でのライブをやり終え、それらの曲を毎日聴かなくてはならない苦行から解放された。それによってまた邦楽漬けの毎日に戻るのであるが、何だか以前と違い、音楽を聴いていてもしっくりこなくなっていた。一言で表せば、それまで聴いていた音楽に飽きてしまったというか。おそらく、苦行によって洋楽という新しい音楽の形とその表現を知ってしまったことが原因であろうが、しかし、だからと言って洋楽を習慣的に聴けるほどの興味と忍耐はまだなかった。

 だけど、大学生といえば何かカルチャーに染まっていたり、にわかにでも豊富な知識を持っていること、いわば「ぶってる」ことがステータスになる。そう打算的に考えた僕はこの機会に有名な洋楽ミュージシャンたちの曲を聴いてみようと思ったのだった。とりあえず、知っていれば自分も話題に乗ることができ「知っている」連中の一人になれる。学生階層を一段上がろうと画策したのだった。

 ブック・オフを梯子してとりあえず知っているミュージシャンの有名なアルバムを買っていく。レディオヘッド、ニルヴァーナ、プライマルスクリーム、U2、そしてオアシス。それらを順々に聴いていく。「おお、これがあのSmells Like Teen Spilitか」などと思いながら聴いていくけれど、何だかしっくりこない。そしてアルバムはオアシスの名盤『Morning Glory?』へと移る。

 「Hello」「Roll With it」を聴いていき「Wonderwall」を途中で飛ばし4曲目の「Don’t Look Back In Anger」へ。ジョン・レノンの「Imagine」を連想させるピアノの前奏に続いて分厚いギターが鳴り響き、ボーカルが入る。この数秒のあいだに僕はもうやられてしまった。それまで聴いてきた曲と違い遥かに心地の良い気分になった。身体のOSが一瞬にして書きかえられてしまったかのように、曲に身体を奪われてしまったのだった。ベッドに大の字になり、そのまま聴き入る。それからは飛ばすことなくアルバム最後の曲である「Champagne Supernova」まで流しっぱなし。部屋の明かりを消して聴いていたこともあり、その後は眠ってしまった。

 その体験以来、僕はオアシスが大好きになりアルバムを全て揃えるようになった。もちろん全ての曲を聴いてきた(つもり)。カラオケでもオアシスばかり歌うようになり、周りを白けさせることもあった。ギターで曲をコピーすることもあり、上記の「Don’t Look Back In Anger」や「Live Forever」のギターソロを徹夜で練習することもあった。そうしてギターの腕も少しは上達した。それだけハマったのであった(その甲斐あってか、宮崎に帰ってきてからはラジオで弾き語りもさせてもらったし)。他にも彼らが好んで身に着けていたアディダスを、自分も真似して身に付けたり。影響されることは多かった。

 しかしそれ以上に、僕がオアシスを好きになることによって決定的に変わったことは、洋楽が好きになり、洋楽を中心的に聴く生活へと移行したことにあると思う。オアシスを好きになることによって、彼らが影響を受けたとされるミュージシャンたちの曲を知り、それらを聴いてどのあたりに影響を受けたのか想像してみたり、ビッグマウスで有名だったオアシスが罵っていた同時代や現代のミュージシャンの曲を聴いて、「あれ、意外と良くね?」と感じたり。そうやって気付けば様々な洋楽ミュージシャンに手を伸ばしていたのだった。そうするうちに洋楽の持つ楽曲の雰囲気が身体に馴染むようになって、次々に新しい音を求めるようになった。

 先日、オアシスの絶頂期(94年~96年ごろ)を切り取ったドキュメンタリー映画『オアシス:スーパーソニック』を観た。バンドの中心メンバーであるギャラガー兄弟のステージパフォーマンスは最高にイカしていた。

 20歳そこそこの学生だった当時の熱狂を携えて彼らの曲を聴くことはもう今ではないが、それでも僕にとってオアシスは永遠の「Rock’n Roll Star」であり続けるんだろうなと、映画を観て思ったのであった。

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