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足りないものや失ったものをカバーするための知識と経験、そしてパワーを持っていること 【プロ資格マニアの軌跡】

2013年の初夏、私は顔面神経麻痺(ハント症候群)になり、口が閉まらず、しゃべることと食べることが一気に不自由になった。私の様子を見ていた親や友人はとても心配したが、私はほとんど心配しなかった。

なぜなら私は、2001年にメニエール病改善手術のために耳鼻科に入院した経験があり、入院仲間であった顔面神経麻痺の患者さんが回復していく様子を知っていたからだ。「今日、明日に回復するわけではないが、きちんと治療を受ければ2週間か3週間でしゃべれる、食べられるようになる」と信じることができた。だから、私は心配していなかったのだ。

私は健康を損ねたけれど、「回復する方法がある」という知識と、回復を信じるパワーがあったということだ。また「この経験を今までのように手記にまとめ、Webサイトで発表すれば人の役に立てる」という思いが、心のパワーの源だったとも思う。


時は流れ、2018年(平成30年)。この年は大阪府北部地震(6月)、平成30年7月豪雨、そして数々の台風と自然災害が続いた。私も、大阪・北摂での講演前日が大阪府北部地震で影響を受けたり、岐阜県に講演に向かったものの、集中豪雨のため中止になったり、台風の影響で停電が続いたり、さまざまな経験をした。

なかでも印象深いできごとは、その年の7月のこと。講演は中止だろうと予測しながらも岐阜県にいた私に、講演中止と名古屋から大阪への高速バスの運休、さらに大阪市内の交通機関の運休などの報せが次々に届いた。名古屋から大阪へ、仮に鉄道で帰ったとしても、大阪市内から泉州の自宅へ戻る手段はない。

でも私には「大阪市内ではなく、24時間営業の関西空港を目指せば、何とかなる」という確信があった。だからこそ、名古屋から関西空港まで高速バスを乗り継いで移動する方法(奈良を経由する)を探し出すことができ、不安に陥ることはなかった。

台風の影響で停電が続いたときも「真っ暗闇の夜が過ぎれば朝は来る」ことが分かっていたし、オール電化の我が家でもし停電が起こったらどうするかを日ごろから考えていたので、何とかしのぐことができた。


私は、いつからか資格マニアと呼ばれるようになったが、資格を取ることだけでなく、新しい知識を取り入れることが好きだ。「お金にもならないのに資格ばっかり取って」と笑われることもあったけれど、私が健康を損ねたり、介護で燃え尽き症候群になったり、リーマンショックなどの経済情勢の変化があったりした中で、フリーランスとして生き延びて来られたのは、さまざまな資格と知識のおかげだ。


もし、災害の影響で食べ物や衣服を失ったり、仕事がなくなったりしたときも、自分のなかにある知識とパワーは、自分のものだ。泥水をろ過する方法など生命維持に直結する知識から、罹災証明書の貰い方や使い方など生活の建て直しに使う知識まで、どんな知識もあって損はないし、邪魔にもならない。できるなら、泥水をろ過したり、火をおこしたりする練習をしておけば、知識が経験に変わる。

「失ったもの、足りないものをカバーできる知識と経験」があって、「私は生き延びてみせる」と思えるだけの心のパワーがあれば、なんとかなる。

人間は、神様が「もういいよ」というまで生き延びなければいけないのだから、そのために使える知識とパワーを自分の中に持つほうがいい。私も介護うつとかパニック障害とか婦人病とかいろいろな理由で「しにたい……」とつぶやきながら、自室に閉じこもっていた経験がある人間だから、偉そうなことは言えない。でも神様がいいと言うまでは、生きていなければいけないのだなと感じたのも、この頃だ。

どんな状況になっても、「私は生き延びられる。そのための知識と経験、心のパワーを持っている」と信じられることこそが「ゆたかさ」だ。それさえあれば、失敗や欠乏を恐れず行動できるようにもなる。


最後に、知識や経験だけでなく心のパワーの大切さを感じたことも、書き残しておこう。

今の私はディンギーヨットに乗ることができ、ボートもなんとか動かすことができるようになった。でも、初心者のためのヨット教室に通いたいと、経験者の先輩に相談したときは、思いっきり反対された。「痩せすぎ」「その体重では沈(ちん)したヨットを起こせず、遭難する」が大きな理由だった。またその人は、私の精神的な弱さを見抜いていて「できなかった場合の精神的なショック、恥の意識が大きいのでは?」と心配したのだと思う。

その人に反対されたのは悲しいことではあったが、「痩せすぎ」という具体的な指摘をされている分、対処法も分かりやすかった。そして「できない」という前提でヨット教室に行った分だけ「できなくてもショックを受ける度合いが少ない」という面もあった。

私も、遭難などで人に迷惑を掛けてまで、やることはできないので「安全にできる範囲のことから挑戦して、徐々にできるようになっていこう」「たとえ人より歩みが遅くても、人と比べず、私なりに前に進めればいい」と考えて、少しずつ進んできた。

「足りないものをカバーするための心のパワーを保つことができた」ことが、「ヨットに乗れる」というゆたかさにつながったのだ。


河野陽炎の本とコンサルティング

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