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【映画批評vol.5】戦闘シーンがカッコ良すぎる映画がある『劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト』

 この度、『仮面ライダー555』20周年記念特別配信と題して、今作がYoutubeで、期間限定で無料配信される運びとなった。配信期間は明日31日までなので、未視聴の方はぜひお急ぎください。

 ファイズの放送時、僕はまだ生まれていなかったし、小さい頃に親が借りてきてくれたDVDで全編見たはずが、何も覚えていないので、ファイズへの特別な思い入れはない。しかし、後にYoutube上で変身シーンや戦闘シーンの切り抜きを見て、今ではビジュアル的にかなり好きなライダーの一人となった。そんな中、無料配信の噂を聞きつけて鑑賞してきた。

 僕は『仮面ライダーゼロワン』を見終わると同時に仮面ライダーは卒業した身なのだが、やはり平成一期のライダーは独特のかっこ良さがあるなと感じた。ライダーのシンプルなフォルムと、重めのストーリー。電王、ダブル、エグゼイドが好きな僕にはそれがすごく新鮮で、ファイズが変身するときに浮かび上がる赤いラインを、無料かつ高画質で見れただけでも、至高の一時でした。

 ちなみに今作は本編のパラレルワールドのような世界観らしく、本編の記憶がない僕でも大体飲み込めた。ただ、それぞれのキャラの説明はないので、その辺の予習は必要かも。

【ネタバレを含みます!注意してね!】
ε≡≡ヘ( ´Д`)ノ   ε≡≡ヘ( ´Д`)ノ   ε≡≡ヘ( ´Д`)ノ


あらすじ

 全世界は人類の進化形たるオルフェノクの組織であるスマートブレイン社が完全に統治し、人類のほぼ全てはオルフェノクと化していた。そんな中、最後まで希望を失わず、レジスタンス活動を続ける人間解放軍の象徴である園田真理(芳賀優里亜)は、人類に味方する木場勇治(泉政行)ら3人のオルフェノクたちと共に、行方が知れない乾巧(半田健人)の帰還を信じていた。やがて真理は、記憶を亡くし「隆」という靴職人として少女・ミナ(黒川芽以)と暮らす巧との再会を果たす。記憶を取り戻した巧は再びファイズとなり、後にさらわれてしまう真理の救出のために、公開闘技場へ向かう。そこで、帝王のベルトを装着したサイガ、オーガを倒した巧は、未だ絶望に満ちた世界に、真理の手を引いて歩き始めた。

↑予告編↑

個人的評価

★★★★☆☆☆☆☆☆(4/10)

良いところ

①対サイガ戦

 間違いなく今作一の見所。乾巧は度々、その類まれなる戦闘センスを称賛されるが、このシーンを見るだけでも、それがよく分かる。

 具体的な魅力は、既に多くの人が各所のコメントに書き込んでいるうえ、百聞は一見に如かずという言葉もあるので、ぜひ自分の目で確かめてほしい。未だにこれ以上かっこいい戦闘シーンを見たことがないという人も多いと聞く。

 余談だが、バサシレンコンという人たちがこのシーンを再現している動画があって、それがめっちゃ面白いからぜひチェックしてね。

↑再現度高すぎwww↑

②木場勇治と愛すべき三人衆

 木場勇治率いるオルフェノク三人衆は、今作随一の良キャラだった。たくさん人が死ぬ今作だが、悲しかったのは海堂と結花の死のみだった。

 各々のキャラがしっかりと立っており、オルフェノクにも人にもなりきれない葛藤も比較的丁寧に描かれていた。今作は、というかライダー映画は基本的にライダー以外の部分を雑に扱いがちなので、短時間でここまで感情移入できるキャラを確立できたのは強い。個人的にはツンデレ海堂が好きです。

 特筆したいのは、木場を演じた泉政行の演技。スマートブレインに捕まり、真っ白な部屋で悶絶する姿はまさに迫真の演技だった。序盤の優しそうな表情が、中盤、スマートブレインの策略によって人間不信になったり、仲間を失ったりしたことで徐々に陰っていき、クライマックスでオーガとして登場したときの、覚悟を決めたような顔つきと力みで震えている様子には思わず、「そうなっちゃったのか……」と悲しくなった。ドラマ的な部分で評価すれば、今作は泉氏の怪演と、半田健人の声の通りで成り立っていると言っても良い。

 本当に惜しい人を亡くしたと思う。ご冥福をお祈り申し上げます。

③菊池啓太郎、カイザに変身

 本編も合わせて、ファイズの魅力の一つは複数人で使い回しできるベルトだと思う。敵も味方も関係なく使用できるからこそ、ファイズやカイザのベルトが敵側に回ったときの絶望は大きいし、逆もまた然りで、デルタが味方側についたことには興奮した。使用者によってライダーの雰囲気も随分変わり、スーツアクターの技を再認識するきっかけでもあった。

 終始おどろおどろしい雰囲気の漂う今作において、菊池啓太郎と野村博士が癒やし要素だった。今作においては野村の発明品「変身一発」を飲んだことで、人間の菊池啓太郎が、死ぬことなくカイザに変身できた。まあこれくらいぶっ飛んだコメディだと、逆におかしいとかつっこみにくくなるわな。啓太郎独自の変身ポーズもかっこよくて頼もしい。カイザの装着者が啓太郎だったら良かったのにとさえ思わされた。

④大量エキストラ

 ライダーファンの間では有名な話だが、今作は「映画一本における最多出演者数」としてギネスブックに載った。実際、さいたまスーパーアリーナに1万1千人のエキストラが入ったという。その甲斐あって、闘技場でのシーンはかなり迫力のあるものとなっている。

 何より心が温まったのが、エンドロール。前情報を入れていなかったから知らなかったのだが、先述のエキストラの名前が全て入っている。さらに、その字間に「THANK YOU」と見える。こういう演出は粋で良いと思う。

⑤草加の死

 爆笑。

良くないところ

①脚本

 ストーリーとしては、目も当てられないくらい終わってる。展開があまりに行き当たりばったりすぎる。決して長い尺ではないのに、シーンを詰め込んでいるせいで、無駄にサクサク進んでいくイメージで、何というか、趣や余韻がない。序盤は特に顕著。水原がファイズになりたがる描写や、ミナと巧の恋愛要素は、果たして必要だったのか。

 序盤から嫌な奴役を買って出ている水原は、きっと終盤、ちょっと良い奴になって死ぬんだろうなと思っていたら、ろくに改心もせずに中盤で死にやがった。ホースオルフェノクの剣が腹にぶっ刺さっているのを見て、思わず「えーーー!」って言っちゃった。ほぼ自爆とはいえ、死に方が雑すぎて不憫。

 そんな水原に、ミナが撃たれてしまった問題のシーン。あれに関しては唐突すぎて吹き出してしまった。

仮面ライダー作品で、人が怪人以外に殺されるのっていいんだっけ?

 あと巧と真理のダンスシーンを見たミナがテン下げ状態になって、自分のドレスを燃やしちゃうシーン、あれよく分かんなかった。何か急すぎて、全然感情移入できなかった。序盤で「はい、ミナが巧を好きそうっていう描写、差し込んどきまーす」程度の雑で短い紹介があっただけだったから、見事にヒスってるミナを見て「え、そんな好きだったんだ」って思っちゃった。「どれくらいイイ女か見せてやるよ」と巧に言い放つくらいには、グイグイなミナ。でもその割には、パーティーの準備でもたつく彼女を待つと言ってくれた巧を、「いいから」と先に行かせたりする。ダンスシーンの目撃後、巧と鉢合わせると、見てらんないぐらい臭い恋愛芝居をして、唐突にバーン。死亡。僕が彼女のキャラを咀嚼する前に死なれてしまった。そんなわけでミナの気持ちが一つも分からなかった僕は、多分女心が分かりません。

 とにかく、不要なシーンが散見できるとか尺が足んねえとかっていうのは、惜しい映画の鉄板ネタなのだが、今作もまた例にもれないという結果だった。

②登場人物たちの心情の変化

 質の低い脚本と繋がるところはあるが、登場人物たちの心情の変化が目まぐるしく、感情移入しづらい。

 僕が指摘したいのは、特に終盤の二つのシーン。巧がオルフェノクであったことを真理が知るシーンと、敵側の策略で人間不信に陥った木場が、再び人間に味方するシーンだ。

 長い間人間だと思われていた巧が、実はオルフェノクであったことは、本編をリアルタイムで追っていた人に、大きな衝撃を与えたことだろう。本来オルフェノクでなければ用いることができないベルトを巧が使って、ファイズに変身できていたことも、ここで初めて説明がつくわけだ(この要素がエグゼイドにも応用されていたりする)。

飛行機をバックにオルフェノク化するシーン、かっこいいよね

 しかし、劇場版ではかなりあっさり処理された感じだった。真理は、エラスモテリウスというクソでかいオルフェノクの餌食にさせるという敵側のもくろみで、檻に入れられてしまう。その直前に、巧のオルフェノク化を見て衝撃を受ける。が、檻に入って運ばれる段階になるとすぐに気持ちを切り替え、巧を鼓舞し始める。

こんなヤバ過ぎる世界で生きのびていく人の切り替えだよなぁ……

 木場のシーンも全く同じ理由でダメ。スマートブレインの策略で、一度は完全にオルフェノクサイドに立った木場が、巧に倒されて、すぐに真理を守るムーブに出るのだ。他媒体でもっと詳細な設定があるなら別だが、このシーンだけ見ると、木場の切り替えの速さに戸惑う。

せっかくここまで、木場を熟成させたのに……

 オーガに変身するときのアップで、過去にけじめをつけたような並々でない決意を感じた。戦闘中にも巧に「お前のやりたかったことを俺がやる。お前の理想は俺が継ぐ」と言われたことだし、ここは潔く死んでも良かったんじゃねえかな。最後の最後でまた良い奴に戻るのは、何かご都合主義な感じだし、品がなくていただけない。それでもどうにかして良い人で終わらせたいなら、死に際に「俺がやりたかったことって……」とか「あとは頼んだぞ、乾巧」とか言わせれば哀愁になるんじゃないか?

③もこみちの芝居

 これも結構悲惨。学芸会レベルです。序盤は結構長々と喋るため苦痛。嫌な役は演者が良いほど嫌われると言うが、水原に関しては演技も良くなかったし役としても嫌い。先述の話とは矛盾するが、早く死んでくれたのが幸いだった。

④対オーガ戦

 ここは迷ったが、対サイガ戦との対比で、良くないシーン判定となりました。

 というのも、ビジュアル的な満足感があった対サイガ戦に対して、対オーガ戦はかなり地味であっけなかった。展開で言うと、ひたすらオーガが圧倒していて、ファイズが(なぜ初めから使わないでおなじみの)最強フォームに変身すると途端にファイズ優勢になり、そのままあっけなくオーガダウンというつまらない顛末。攻撃手段で見ても、サイガは剣や銃を用いた攻撃のほか、空中飛行なども見せたことで見飽きない戦闘シーンが演出された。それに対しオーガ戦は9割パンチ。まあそれは、木場と巧の真っ向勝負という演出も込みなんだが、登場・変身シーンだけで異様なオーラを放っていたオーガの、より深い魅力(ファイズのライダーに特徴的なライトアップなど)がさほど引き出されないままで終わってしまったのは、正直もったいないと思った。

最後に

 まあ今回は体裁を守ってというか、しっかりと一本の映画として評価したが、正直仮面ライダーの映画を、ストーリーとかで批評するのは違うと思う(というぶち壊し発言)。所詮はカッコ良ければいいんです。今作でいえば、対サイガ戦が含まれているというだけで、オーガのクソかっこいい変身シーンが含まれているというだけで、砂化草加がもう一度見れるというだけで、見る価値があるということだ。星4つというのも言わば愛。侮辱ではなく大真面目に、仮面ライダー映画というのはこのぐらいのクオリティーで十分だと思う。

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