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大日本帝国憲法と日本国憲法

■なぜこの2つの憲法を比較して勉強するのか?

社会科の授業を受けた人ならまったく印象に残っていないとしても、一度は憲法について学んだことがあるはずです。

その時に、大日本帝国憲法と日本国憲法の違いについて表にして書かれているものを見ながらテストに向けて勉強したのではないでしょうか?下のような表です。

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この比較をすることの意味ってなんなのでしょうか。単に日本国憲法と大日本帝国憲法を比較して、前者は後者より優れていることを言いたいんでしょうか。過去より現在の法規制のほうが(一般的に)優れているなんて常識です。「やっぱり昔は憲法が未熟だったんだね〜」なんていう単純なことではないはずです。

■大日本帝国憲法の当時の評価

大日本帝国憲法を称賛し、復古主義的な改憲論を唱える人たちの意見は私個人としては合い入れませんが、大日本帝国憲法は当時の基準からしてみると西洋の憲法典を参考に日本の実情に合うようにとてもよく練られた憲法だったことは確かなことだと考えます。

東洋のルソーと呼ばれた中江兆民は帝国憲法の内容が、自分の期待するルソーの『社会契約論』と大きく異なることに苦笑した。というエピソードが残っていたり、ベルツの日記には日本人が憲法の条文も読まずに浮かれ騒いでいる当時の様子を書いていたりなどこの憲法に対する冷ややかな目線が当てられた事実もありますが、当時の欧米の国々の評価は高かったのです。

日本国憲法との比較で論じられると概して天皇中心の政治体制としての印象や、軍国主義への原因と捉えられがちですが(実際にその部分は大きいと思いますが)制定当時の欧米諸国の憲法と比較しても、日本だけが天皇に権限が強すぎたということもありませんでした。実際にフランスのルボンなどは「天皇の権力が弱くベルギー憲法のようであり、精神においてイギリスの憲法のようだ」と評していたのです。

そして何より、欧米諸国の憲法に劣ることがないことは、その後日本が欧米諸国との不平等条約を解消した歴史的経緯が証明していると考えます。

■大日本国帝国憲法の構造上の問題

しかし、やはり第二次世界大戦という戦争の悲劇を招いた一因としてこの憲法の構造上の問題があったことは間違いないと思います。(他にも戦争の遂行における冷静な状況分析が欠如していたことも大きいと考えられます。参考『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』中公文庫 1991)

私個人の勉強の限りでは、大日本帝国憲法の構造上の大きな問題は政府と議会と軍隊と天皇の関係性だったのでは無いかと思います。

戦争の真っ只中に総理大臣を務めた東條英機はその敗因について次のように述懐しています。

「根本は不統制が原因である。一刻の運命を預かるべき総理大臣が、軍の統帥に関与する権限のないような国柄で、戦争に勝つわけがない......自分がミッドウェーの敗戦を知らされたのは、一ヶ月以上後のことであって、その詳細至っては遂に知らされなかった。如是して、最後まで作戦場の完全な統一は実現されなかった。」重光葵『昭和の動乱(下)』中公文庫 2001

この発言により東條英機の責任がなくなるわけではもちろんありませんが、日本がいかに戦争をする・戦争をやめられる体制でなかったことを物語っているのではないでしょうか。

詳しくは書籍を参考にして欲しいのですが(ただ単に自分の知識不足です......)軍部大臣現武官制度や政党政治に対する民衆の信頼の失墜などが軍部政権を招き、それに対して内閣が機能しなくなってしまったということがありました。

■2つの憲法を比較する意義

基本的な教科書的な正解とすれば、以下のようになるのではないだろうか。

戦前の大日本帝国憲法では、国家のありかたを決める主権は天皇にあった。そのため天皇や政府・軍部の力が強く、戦争という非常事態に直面すると国家権力は暴走した。この反省から、より適切に国家権力をコントロールできるように制定されたのが日本国憲法である。

憲法に問題があったとしても、何ならそもそも憲法というものがなくても、素晴らしく才能に秀で、人権意識のある人格者が為政者であれば、国家として成り立つのかもしれない。

こうした比較と経緯を勉強すると、しっかりと憲法を運用するという国民の意識も大切であることを感じさせてくれる。

大日本帝国憲法はある程度問題はあれど、当時の国際情勢と照らし合わせてもそこまで偏った憲法ではなかったのである。であるならば、やはり問題点はその内容というよりも憲法の運用過程というところにあるのではないだろうか。

その意味で、日本国憲法は大日本帝国憲法と比較して民主的になったし、安心安心と思うのではなく、この日本国憲法がしっかり運用されているかどうかを国民が注視していく必要性を学ぶためなのではないだろうか。

ということで私の個人的な回答としては

大日本帝国憲法の制度上の欠点がその後の国家権力の暴走・戦争を引き起こしたことの考察を通して、現代の日本国憲法が抱える課題や運用面での問題点を見つめなおす機会である。

といった視点も追加したいと思う。

今後現日本国憲法に対して、改正日本国憲法が現れるとすれば、どのような比較表が作られるのだろうか。

改憲についての是非についても考えていきたい。




まだ駆け出し者の文章を読んでくださり本当にありがとうございます!