『名目抄』を読む ーお公家さんの教養を学ぶー

史料を読むとなったとき、文章の読み方そのものも難しいですが、それと同じくらいそれぞれの単語の読み方も問題になります。
特に公家に関することにおいては、代々故実として伝えられた独特の読みも多く(このような読み方を「名目」といいます)、学習者を惑わせることも少なくありません。
洞院実煕によって編纂された『名目抄』はそんな知識の一端を伝える有益な故実書のひとつです。
『名目抄』は、ジャンルごとに分けられた故実にまつわる単語の読み方、アクセント、清濁などをていねいに伝えています。
序文によると、日本においては名目といって、音訓がそれ通りではなく、清音濁音を交えており、これを間違えれば、「法を失す」る(決まりごとを破る)こととなるとまで言われています。

言葉から公家のせかいを学び、いつでも摂関家の御かたがたの質問に答えられるようにしておきましょう。

注意
あくまでもこれは実煕に伝えられた説を示すのみであって、これらが必ずしも正解というわけではありません。他説がある場合もありますが、ここではひとまず『名目抄』が伝えるものをいくつか紹介します。

(表記は「単語(読み方)(アクセント→後で足すよ)(補足)」の順)

年中行事


小朝拝(こでうはい)

元日宴(ぐゎんにちのえむ)僧侶の中で「げんにち」と読む人がおり、この読みが世の中で行われるようになってきていたそう

元三(ぐゎんざん) 「ぐゎんさん」ではなく、「さ」は濁ります

御弓奏(おむたらしのそう)

女王禄(わうろく) 「女」字は飛ばして読みます

男踏歌(をとこだふか) 「をたうか」と読む説もあるそう

御薪(みかまぎ)

手番(てつがひ)

射礼(しゃらい)

射遺(いのこし)

政始(まつりごとはじめ)

率川祭(いさやかはのまつり)

鎮花祭(はなしづめのまつり)

三枝祭(さいくさまつり)

鎮火祭(ひしづめのまつり)

節折(よをり)

乞巧奠(きかふでん) 世の中では「きっかうてん」という人もいるが、言うに足らないと実煕は言っています

織女祭(たなはたまつり)

盂蘭盆供(うらんぼん) 「供」字は飛ばして読みます

仁王会(にむなうゑ)

定考(かうぢゃう) 漢字をひっくり返して読むのが例です。一説では「上皇」と通じるのを嫌ったとも言いますが、少し怪しいです

小考定(こかうぢゃう) 「定考」と違って逆になりません

射場始(ゆばはじめ)

相嘗祭(あひむべのまつり)

臨時の儀式


即位(しょくゐ) 「御即位」のときは「おしょくゐ」と読みます

御元服(ごぐゑんぶく)

御着袴(ごちゃっこ/ごちゃくこん)

行啓(ぎゃうげい)

焼亡奏(じょうまうのそう)

私的な儀式


奏慶(けいをそうす)「そうけい」と読む人が最近でてきましたが、実煕はそのような故実は知らないとしています

着陣(しゃくぢん)

着座(しゃくざ)

上表(しゃうへう)

還昇(くゎんじょ) 漢字通り読むと「くゎんしょう」となるが、名目では「くゎんじょ」といいます

諸々の儀式に関する語


同車(とうじゃ) 実煕の説では「どうしゃ」は認めないが、家ごとに違ったらしい

同心(どうじむ) 「どうしむ」と読む人がいるが、「どうじむ」と濁るのが正しいそう

綸旨(りんし)

練歩(れんほ)

連署(れんじょ)

参来(まうこ)

任請(まうしのまま)

敷奏(ふそ)

細練(こまかねり)

比(ころをい)

調度(でうづ)

任例(あとのまま)

左右左(さゆうさ)

議奏(ぎのそう)

召声(めしこゑ)

未施行(みしぎゃう)

先蹤(せんしょ)「せんしょう」と伸ばさないそう

前祖(せむじょ) 「ぞ」ではなく「じょ」と読むのが故実です

人に関する語


国母(こくも)

女院(にょうゐん)

女御(にょうご)

殿下(てんが)

花族(くゎしょく)

大夫君達(まちきんだち)

上達部(かむだちめ)

官掌(くゎじゃう)
召使(めしづかい)

侍医(おもとぐすし)

仙洞御所、院に関すること


上皇(しゃうくゎう)

本院(ほむにむ)

中院(ちうゐん)

新院(しんにむ)

年預(ねんにょ)

判官代(はふぐゎんだい)

上北面(しゃうほくめん)

下北面(けほくめん)

御厩別当(みまやべったう)

舎人(とねり)

布衣始(ほういはじめ)

様々の物の語


版位(へんに)

緑端(みどりべり)

衝重(ついがさね)

下器(かづき)

日記唐櫃(にっきのからうと)

時簡(ときのふだ)

玄上(ぐぇんしゃう)

(仮名遣いは実煕のものにしたがう)

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