日本のエッチな漢文の話④『医心方』「九法」

1. はじめに


 古代において性交は現代のそれとは、また、別の意味合いを有していたことだろう。当時において、子孫を残すことの意味合いは頗る重く、他方、その方法によっては生命を長くするとも考えられた。そのため、中国では古来、より長生きをするための性交の仕方も編み出され、それはたくさんの文献に見えるところである。これは房中術と呼ばれ、日本でも受容されていたようである。古代の医学書『医心方』巻第28「房内」には、古代中国の書物を引用してたくさんの房中術を記録している。そんな中でも本稿では特に「体位」に注目していきたい。

2. 『医心方』って?


 本題に入る前にまずは『医心方』について見ていきたい。『医心方』は丹波康頼によって著された。誤解なきように言うと、本書はあくまでも医学書であり、決してこのような内容がすべてではない。しかし近代を通して、誤解されてきた歴史があるため、その点は大いに注意しなければいけない。他の編を見れば、現代でも応用できようなものから、あるいは不思議な術方まで、当時のさまざまな医学にまつわる知識が詰め込まれた医学書である。古代中国の医術書からの引用も多く、すでに散逸したものも含むため、その点においても貴重であるといえる。

3. 古代の体位 『素女経』の「九法」


 房内編では「九法」と「三十法」が紹介されている。それぞれ引用元が異なり、前者は『素女経』、後者は『洞玄子』という書物から引用されている。まずは「九法」から見ていこう。(なお本文石原明解説『医心方 巻第二十八 房内 宮内庁書陵部本』(1967 至文堂)を参考にし、訓読、現代語訳を行った)
① 龍翻(龍が空を飛ぶの意味。正常位)
女をして正しく偃臥し上を向はしむ。男は其の上に伏して、股は床に隠す。女は其の陰を挙げて以て玉茎を受け、其の穀実に刺す。又た其の上を攻む。疏緩にして動搖し、八浅二深にす。死往生返し勢は壮にして且た強し。女は則ち煩悦す。其の楽しきや倡のごとし。自ら閉固するを致し百病は消亡す。

〈現代語訳〉女をまっすぐに寝かせて上を向かせる。男はその上に伏せて乗って、股は女性器にいれる。女は女性器をあげて、男性器を受けいれて、男性器は中心を突き、また上側を刺激する。ゆるやかに動かし、八浅二深(八回浅く突いたら二回深く突く)を行う。絶頂して、勢いは盛んで激しい。女は快楽を感じる。その楽しさといったら歌い女のようである。自然落ち着いてきていかなる病も平癒する。


② 虎歩(虎が歩むの意味。男上位の女後背位)
女をして俯俯して尻を仰くして首を伏せしむ。男は其の後に跪き、其の腹を抱く。乃ち玉茎を内れて、其の中極を刺し、務めて深密にせしむ。進退相ひ薄くして、五八の数を行ふ。其の度自ら得れば、女陰は開張し、精液は外に溢る。畢りて休息すれば百病発らずして、男益ます盛んなり。

〈現代語訳〉女をうつ伏せにして尻を高くあげさせ、首は伏せさせる。男はその後ろに跪いて後ろからお腹を抱く。男性器を挿入して中心を突き、密着させる。ピストンはゆっくりめにして五八の数(五回深く突いて八回浅く突く)を行う。限度が自然とわかれば、女性器は開がり愛液が溢れてきたら、行為をやめて落ち着いて休むと、いかなる病にも罹らず、男はどんどん盛んになる。


③ 猿搏(猿が組み合うの意味。女上位の座位)
女をして偃臥せしめ,男は其の股を擔ぎ、膝は還た胸を過ぎ、尻と背と倶に挙ぐ。乃ち玉茎を内れて、其の臭鼠を刺す。女は煩えて動搖し、精液は雨のごとし。男は深く之を案けば、極めて壮にして且つ怒す。女は快にして乃ち止む。百病自ら愈える。

〈現代語訳〉女を仰向けに寝かせ、男は両足を持って、膝は男の胸の位置を越えて(肩あたりまで持ち上げ、)尻と背があがるほどにする。それから男性器を挿入し、女性器を突く。女は悶えて体を動かし、精液は雨のように流れる。男は深くこれをより突くと、男性器はより一層雄壮になり、膨張する。女は快楽を感じ、性交を止める。すると百病は自然と回復する。

④ 蝉付(蝉が木につくの意味。逆茶臼)
女をして伏臥し其の軀を直伸せしめ、男は其の後を伏し、深く玉茎を内れ、小さく其の尻を挙げ、以て其の赤珠を扣き,六九の数を行ふ。女は煩えて精は流る。陰裏動もすれば急にして、外に為に開舒す。女、快にして乃ち止む。七傷自ら除かる。

〈現代語訳〉女をうつ伏せにして体をピンと伸ばす。男は後ろからのしかかり、深く男性器を挿入し、少し女の尻をあげ、女性器を突き、六九の法(54回突く)を行うと、女を悶えて精液を流し、女性器はややもすれば急に動き、性器の入り口が開く。女は快楽を感じ、そこで性交を止める。七傷(7つの感情からくる病気)は自然と平癒する。

⑤ 亀騰(亀が勢いよくのしかかるの意味。男上位屈曲位)
女をして正臥し、其の両膝を屈げしめ、男は乃ち之を推し、其の足は乳に至る。深く玉茎を内れて、嬰女に刺す。深浅、度を以てし、其の実に中たらしむれば、女は則ち感悦し、軀自ら搖挙し、精液は流溢す。乃ち深く極めて内れば、女は快にして乃ち止む。之を行ひて失ふこと勿ければ精力百倍なり。

〈現代語訳〉女をまっすぐに仰向けにして両膝を曲げさせ、男は女の脚を、乳に至るほど押し込む。深く男性器を挿入し、女性器を突く。深浅をはかり、陰核亀頭に当てれば、女は快楽を感じ、体は自然と動き出し、精液は溢れだす。そこで深く窪を突くと、女が快楽を感じ、そこで性交を止める。これを行うにあたって、失敗することがなければ精力は百倍になる。

⑥ 鳳翔(大きな鳥が飛んでいるの意味。横臥位)
女をして正臥し、自ら其の脚を挙げしめ、男は其の股間に跪き両手にして席に據り、深く玉茎を内れ、其の昆石を刺せば、堅熱内牽なり。女をして動作し三八の数を行はしむれば、尻は急にして相ひ縛り、女陰は開舒にして、自ら精液を吐かる。女は快にして乃ち止む。百病消ゆ。

〈現代語訳〉女を仰向けにして自分で脚をあげさせて、男はその股の間にひざまずき、両手をして体を支え、深く男性器を挿入し、女性器を突けば、硬く熱いものが中に入ることになる。そこで女を動かし、三八の法(24回突く)を行わせると、尻は急に狭くなり、女性器は開いて自然と精液を吐く。女は快楽を感じ、そこで性交を止める。そうすれば百病は回復する。

⑦ 兎咥毫(兎が跳ねるの意味。逆茶臼)
男は正しく反臥し、脚を直伸し、女は其の上を跨ぎ、膝は外辺に在り。女は背し、頭は足に向ひ、席に據り頭を俯す。乃ち玉茎を内れて其の琴弦を刺せば、女は快にして精液の流出すること泉のごとし。欣喜和楽にして,其の神形を動ぜば、女は快にして乃ち止む。百病生ぜず。

〈現代語訳〉男はまっすぐにうつ伏せになり、脚をピンと伸ばし、女はその上にまたがり、膝は外側に置く。女は後ろ向きになって頭は男の脚に向け、体を支えて頭を下に向ける。そこで男性器を挿入して女性器を突けば、女は快楽を感じ、精液は泉のようにあふれ出て、体は大喜びぢ、精神も揺れ動く。そこでは快楽を感じ、性交を止める。すると百病は生じない。

⑧ 魚接鱗(魚が鱗を接しあうの意味)
男は正に偃臥し,女は其の上に跨ぎ、両股は前に向ふ。女は徐かにして之に内れ、微に入れ便ち止む。纔かに授れて深くすること勿くして、児の乳を含むがごとし。女をして独り揺らしめ、務めて遅久せしむれば、女は快にして男は退き、諸もろ結聚を治す。


〈現代語訳〉男はまっすぐに仰向けになって女はその上に跨って両股は前面を向く。女はゆっくりと男性器をいれ、わずかに挿入したところで止める。わずかに入れて深くすることはせず、子供が乳を咥えるくらいにする。女だけが揺れ動き、ゆっくりと、長く性交を行うと女は快楽を感じたところで、男は性器を抜く。すると、様々な結聚を治すことができる。

⑨ 鶴交頸(鶴が互いに首を交わるの意味。普通の茶臼)
男は正しく箕坐して、女は其の股を跨ぎ、手は男の頸を抱き、玉茎を内れ、麦歯を刺し、務めて其の実に中つ。男は女の尻を抱き,其の搖挙を助くれば、女は自ら感快し、精液は流溢す。女は快にして乃ち止む。七傷自ら愈える。

〈現代語訳〉男はまっすぐと膝を開いて座り、女はその股を上に跨り、手は男の首に回し、男性器を挿入し、女性器を突き、陰核亀頭にあてようとする。男は女の尻を抱いて、ピストン運動を手助けすれば、女は自然と快楽を感じ、精液が溢れだす。女が快楽を感じたところで、性交を止める。すると七傷は自然と平癒する。



4. 最後に


 ひとまず第1回目は「九法」についてだけを述べて、締めたいと思う。実際の性交の場で、これらが行われていたという記事は残っていないので、確かめようがないが、まあ基本的な体位もあるので、行われていたものも含まれるだろう。少なくとも、知識としてこれが共有されていた可能性はある。例えば恐らくは藤原明衡が書いたと思われる、男性器の擬人化伝記「鉄槌伝」ではこれらの体位がいくつか登場する。(具体的な内容はこうくが訳したから見てみてね)また中世にはいると丹波氏は『医心方』の抄本もたびたび作成しているが、これらでは房内編がほとんど抄出されているといい、知識として共有されていたと考えられる。


 次回は九法の約3倍「三十法」を見ていきます

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