TRICK? OR TREAT?

「トリック・オア・トリート!」
 あたしが開口一番そう言うと、ユウキは笑った。
「なんだよ、挨拶みてえに」
「なんだよノリ悪いなあ。雰囲気でしょ」
「いや、わかるけど」
 なんて言いながらなにかをこちらに差し出す。あたしはほとんど反射的にそれを受け取った。ハロウィン風の包み紙にくるまった、飴玉か何か。
「なにこれ」
 思わずクスッと笑う。
「なんだかんだ言って準備してるし」
「ねだられそうだなって思ったからね。まさか第一声で来るとは思わなかったけど」
 行こ、とうながされ、あたしは彼の手を取って歩き出す。
 そこらじゅうが仮装した人たちでいっぱい。定番の魔女や吸血鬼、ミイラ男、狼男にフランケン、それにさまざまなアニメキャラ。ゴムマスクをかぶってお手軽に変身している人たちから、凝ったメイクをした本格派まで。あたしはゴシック系の衣装にツノと尻尾、それに小さな羽をつけて、フェイスペインティングをした小悪魔風。ベタに思われるだろうけど、これでも衣装は本格ゴスロリブランドのものをベースにしてるし、飾りは自作。メイクとペインティングにもめちゃくちゃ時間をかけている。安売り量販店の衣装で済ましてる連中とは一味違うという自負がある。一方彼はいつものスーツ。ノリが悪いことこの上ないが、まあ仕事帰りなんだし、そういう人なのはわかってることだし。だからってあたしがノリノリで騒いでるのに嫌な顔しない、そんなとこが好きで付き合ってるんだし。飴玉用意しといてくれるくらいには合わせてくれるしね。
「ね、今日は何食べるの」
「ああ、マリナ、そういうの好きだろうと思って、一応ハロウィンぽいことやってるお店予約しといたよ」
 ほらね、自分では乗っからなくても、ちゃんとそういうとこ気を遣ってくれる。
「ありがとう!」
 あたしは彼の手をぎゅっと握る。

 お店はビュッフェ形式のレストランだった。普段からお値段以上の料理が味わえると評判の店だが、今夜は内装も料理もハロウィン風の装い。目玉や指を模した料理、血の色のソース、どことはいえず魔女の料理感のある具沢山のスープ。ローストビーフの断面さえ、いつもより禍々しく見える。
 お互いのとってきた料理とその装い方のセンスに笑ったりツッコミを入れたりしながら、楽しく食事をした。そのままコーヒーとケーキを持ってきてデザートタイム。賑やかではあるけど大騒ぎするような客もいない、程よい雰囲気の中で、あたしたちは満ち足りた時を過ごしていた。
 今、かな。
 あたしは密かに決心をする。
 本当は、このあとお店変えて飲むだろうから、その時と思ってたんだけど、この和やかな雰囲気の中ってのも悪くない。
「あのね、ユウキ。実は……渡すものが」
「え? なに?」
 あたしはバッグから小さな包みを取り出す。
「これ……ハッピーハロウィン、と、半年記念」
 そう、あたしたちが付き合い始めたのは、ちょうど半年前、四月三十日。
 まあ正確には一日ずれてることになるんだけどさ。
 驚いた顔の彼を見て、あたしは慌てて言う。
「いや、違うのよ? あたしだって一ヶ月とか二ヶ月とか毎月気にしてたわけじゃないし、別にずっと前から考えてたわけじゃないの。でもさ、ハロウィンデートしようってなった時に、思っちゃったんだよね。ちょうど半年だなって。だから、重く感じないでほしいって言うか……気まぐれみたいなもんだし、大した高級品でもないからさ、別にお返しも、期待してないし……」
「参ったな」
 彼はちょっと笑いながら言う。
「まさか先越されるとはね」
「えっ?」
「これ」
 そう言って、彼はカバンから、あたしがあげたのとそう変わらない大きさの、小さな包みを取り出す。
「同じこと考えてた。ハッピーハロウィン。これからもよろしく」
 あたしは半ば呆然としたままそれを受け取る。プチブラというにはちょっと本格的な、けれども十分にカジュアルなアクセサリーブランドの包み。じっと見てるうちに、なんだか……
「お、おい、泣くなよ、そんな大したものじゃないから」
「ううん、なんか……なんか、嬉しすぎて。ねえ、これってさ、こんな偶然って、これもちょっとした運命のいたずら……トリック、ってやつかな」
「トリートじゃね、むしろ。お互いに、与えあってるんだから」
「そっか、うん、そうだね」
 大好き。
 そんなことを言うのは、もうちょっと後に取っておこうかな、あたしは涙を拭きながら考える。

(よかったー、たまたま来週ミレイと1周年デートで。プレゼント早めに用意しといて正解だったわ。まさかマリナがこういうことしてくるとはね。マリナ基準で選んでないけど……まあ大丈夫だろ。さて、それより来週のプレゼント、選び直さねえとな……)


あとがき

はい、ハロウィンストーリーです。季節外れです。
書いてRadiotalkで朗読したのはハロウィンの頃だったんですが。どうしてこうなった。
これもなにかのイタズラってことで一つ(上手いこと言ったつもりか)

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