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こんな私に訪れた たったひとつの幸せ(500字小説)

 いつもそう。彼女は私のものを欲しがる。

 高校二年で出会った最初から、地味でおとなしい私と違って華やかで人目を引く彼女。私の持ち物を褒めて、どこで買ったか聞き出して、しばらくすると手に入れて、前から使っていたふりをする。私に宿題を押しつけるのもうまかった。大学まで一緒になって、初めての彼氏も奪っていった。私から横取りしたいだけなので、男はすぐに捨てられた。
 それが繰り返されて数年、私は仕事で出会ったスタートアップ企業の社長に迫られた。

 そして案の定。

「ごめんね」と言葉だけ。誇らしげな彼女の視線が「その時計どこの?」と私の手元へ。
 そこへ突如「僕の贈り物だよ」と現れたのは我が社の若き御曹司。高身長の美形。教養があって清潔で紳士。全女子社員の憧れの的だ。この日初めて口を利いた。端正な彼女の顔が苦痛に歪んだ。
 後日、私は御曹司から囁かれた。
「見ていて黙っていられなかった。あの女の前では僕が恋人のふりをしよう」
 全く嫌になる。私と彼女の間に男ごときが入ってくるな。

 だってこれって特別でしょう。彼女は私のものを欲しがるの。あんなに美しい彼女が、どんな女よりも男よりも、私を選んで執着する。なんて甘美な関係かしら。


Threadsへ投稿した500文字小説に改行を加え、加筆修正したものです


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