鴻鵠ブラザーズ

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絵描きと物書きの2人組┊noteは主に小説や散文置き場┊コミティアによくいます┊たまにコンテスト参加┊クィア・ノンバイナリー・ジェンダーフルイド┊漫画も作ってます http://yoshiharu8.web.fc2.com/index.html

マガジン

  • 500字小説

    Threadsに掲載した500字の掌編小説 毎週たぶん金曜日あたりに更新 https://www.threads.net/@koukoku_bro

  • オルダニアの春

    本業が忙しくて更新が滞っておりましたが、そろそろまた毎日更新できそうです😊 見捨てられたエルフ、古代の壁を修理する異種族、七大騎士の娘とその従者 ——架空の大陸オルダニアを巡る物語 長編創作ファンタジー小説 (全8章80話予定)

最近の記事

可視化(500字小説)

 今度こそ思い知らせてやる。  俺はカレンダーを睨みつけた。  確かに俺は誓いを破った。煙草はやめると言ったのに。  けれどきみだって誓ったじゃないか。健やかなる時も病める時もと。  今がその病める時ではないのか妻よ。  隠れ煙草が見つかった半年前、喫煙より嘘をつかれたのが悲しいのだと泣いた妻。  俺だってようやくモテて結婚できた相手を傷つけたくはない。  無い頭を捻って提案した。  喫煙経験のないきみにはわかるまいが、喫煙者というのは一日一回だけ吸いたくて吸うのではな

    • +15

      Skytober2020(DAY1~15)

      • 画像投稿のテスト

        • 石(500字小説)

           双子の姉妹は瓜二つで、競争するのが好きだった。試験の点、陸上競技、どっちの彼氏がイケメンか。今日まで勝負は五分五分だった。  2人はバーのテーブル席で、次の勝負を考えていた。 「あそこに男がいるでしょう」 と、カウンターで1人グラスを傾ける紳士を見やる。 「彼にこの、なんの価値もない石に興味を持たせたら勝ちね」  2人は笑った。  片方が席を立つ。 「こんばんは」  美女に微笑まれて男は気を許し隣を勧めた。出だしは上々だ。彼女は前のめりになった。 「聞いて。この石はすごく価

        可視化(500字小説)

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        • 500字小説
          6本
        • オルダニアの春
          28本

        記事

          こんな私に訪れた たったひとつの幸せ(500字小説)

           いつもそう。彼女は私のものを欲しがる。  高校二年で出会った最初から、地味でおとなしい私と違って華やかで人目を引く彼女。私の持ち物を褒めて、どこで買ったか聞き出して、しばらくすると手に入れて、前から使っていたふりをする。私に宿題を押しつけるのもうまかった。大学まで一緒になって、初めての彼氏も奪っていった。私から横取りしたいだけなので、男はすぐに捨てられた。  それが繰り返されて数年、私は仕事で出会ったスタートアップ企業の社長に迫られた。  そして案の定。 「ごめんね」

          こんな私に訪れた たったひとつの幸せ(500字小説)

          ニッポンのレンアイ(500字小説)

           友達の紹介で出会った。互いに三十二歳。自然と結婚を意識した。燃え上がるような情熱はない。それはいつものことだし諦めていたから、小さな安心を積み重ねていくような関係が心地よかった。  仲間内で三回会って、僕から誘って食事して、帰りの駅前で告白した。特に今付き合ってる人はいないからと受け入れてくれた。  数ヶ月後、隔週末のデートが緊急事態宣言で延期されると、二人とも両親が高齢なのでしばらくリモート逢瀬になった。たかを括っていたけれど実際には不安だった。彼女を失うことが苦痛にな

          ニッポンのレンアイ(500字小説)

          それきりふたりは疎遠になった(500字小説)

           母は六つ上の伯母について「姉というよりミニママだった」と批判するけど、私は頼もしく思っていた。「女の子が理工学部なんて」と娘の進路に猛反対した専業主婦の母と違って伯母は味方をしてくれたのだ。  共働きが珍しい時代に子なしとはいえ結婚しながら上場企業で総合職を勤め上げた彼女。  だから二十五年の人生で最大の悩みを抱えた私は、伯母にしか打ち明けられないと思い詰め、都下から鎌倉の戸建てへ電車を乗り継いだ。  彼女は休日でもパリッとしたパンツコーデで「薔薇が見頃で」と温室へ誘って

          それきりふたりは疎遠になった(500字小説)

          六本木のラウンジで楽しむフェティッシュショーの夜

          『Peeping Room 1』 2023.6.11 小雨がしつこくまとわりついてくる夜の六本木は、なにかが起こりそうな予兆があった——…… フェティッシュショー大好き。界隈へ足繁く通う武濤、今夜はラウンジ「L&S TOKYO」で演じられた、一晩限りのイベント『Peeping Room 1』へお邪魔しました。 普段は観て、飲んで、楽しんで、夢のような時間を現場で共有しておしまいなのだけれど、今回は文章にしてみよう。そう思ったのは、1ヶ月経ってもまだPeeping Roomの

          有料
          100

          六本木のラウンジで楽しむフェティッシュショーの夜

          昭和の男とマグカップ(500字小説)

          「使ったカップを洗わないのが男よね」  久しぶりに帰省した台所で夜分、冷蔵庫に寄った姉からチクリと刺された。  俺は反射で笑ってしまう。 「なに?なんか嫌なことでもあった?」 「別に」と姉は夜食を取り出して行ってしまった。  ひとこと明るく「それ洗ってね」と言ってくれればやるのにと、シンクに置いたばかりのマグカップを見おろしたら、隣に仲良く父の分。  カップひとつ洗うくらい、大した労力じゃない。  社会人になって三年、一人暮らしのアパートでは洗い物を溜めたこともない。  確

          昭和の男とマグカップ(500字小説)

          『オルダニアの春』27・創作ファンタジー小説(約3000字)

          見捨てられたエルフ、古代の壁を修理する異種族、七大騎士の娘とその従者、島に移り住んだ魔法使い—— 架空の大陸オルダニアを巡り、複数の主人公の想いが絡まり合う物語 第3章 イーディスとモーラプロローグ  リチャードが干し草の隙間で震える羽目になる十日前。ちょうど、ヒルダがゴーガ人の儀式の中で髪を切った頃。  イーディスは『大鴉の町』を目前にしていた。  そこは『神吹の湖』から南西に馬で一日。『竜の大河』の支流に沿った低地で、背後に『黒い森』を擁し、年中じめっとした不吉な土地

          『オルダニアの春』27・創作ファンタジー小説(約3000字)

          『オルダニアの春』26・創作ファンタジー小説(約2000字)

          第13話 どうぞご無事で  恐ろしい一方的な誓いが蘇る。  リチャードは気が休まらず、疲れからウトウトとしても、心臓が跳ねてすぐに現へ引き戻された。  船頭は気合十分に夜通し漕ぎ、朝日と共に彼らを『神吹の湖』の手前、『湖畔の町』へ届けてくれた。彼もそこで旅の疲れを癒すらしい。  まだ興奮冷めやらぬ彼らが、騎士の息子と繫がりを求めて素性やしばらくの滞在場所を知らせてくるも、リチャードの頭は大蛇と交わした約束でいっぱいだった。  町はまだ朝靄の中で目覚めておらず、リチャー

          『オルダニアの春』26・創作ファンタジー小説(約2000字)

          『オルダニアの春』25・創作ファンタジー小説(約2000字)

          第12話 月が満ちて沈むとき  やがて満月から三日分欠けた光の輪の中に、まるで吸い寄せられたように浮かび上がったかと思ったら、リチャードは急に我に返ったのか両腕を振り回して、近場のどっしりとした何かにしがみついた。  ガスだった。 「リチャード様! しっかり!」  酸素を求めて、胸が大きく上下する。  ガスがリチャードを立たせてやった。足のつく、浅瀬だった。  未だ混乱する頭で周りを見回せば、船頭も客も揃って腰まで水に浸かり、ぎょっとした目を並べている。  あた

          『オルダニアの春』25・創作ファンタジー小説(約2000字)

          『オルダニアの春』24・創作ファンタジー小説(約2000字)

          第11話 大蛇と交わす約束  そこまでのリチャードは、ぼんやりとしていた。  舟の縁から吐いたことは覚えている。そのとき、河の中で何かが動いたことも。  魚か?  大きいな。  まるで商船のようだ。  おぼつかない頭でそう思った。  幻影を見ているようだった。  ガスが何かを怒鳴っている。彼が声を荒らげることなど滅多にない。何があったのだろう。  そうか。アイツだな。我々を下から狙っている、アイツの存在を同乗者に伝えているのだろう。  次の瞬間、リチャードの体

          『オルダニアの春』24・創作ファンタジー小説(約2000字)

          『オルダニアの春』23・創作ファンタジー小説(約2500字)

          第10話 河上の異変 「連れは具合が悪そうだな。病気か? 妙な奴を乗せるわけにはいかねぇぞ」  頭の上に抜けるような甲高い声で、アルバのなまりだった。  ガスが船頭の前に回り込んで、リチャードを視線から隠した。 「問題ねぇ。舟で休ませてくだされば」 「本当に病気じゃないんだろうな」 「少し疲れただけでさぁ」 「長旅か? どこから来た?」 「『南東の入江』でさぁ、旦那。俺たちは孤児でしたんだけんど、あいつの父っつぁまが、『神吹の湖』の近くに住んでるって話を聞いて……」 「

          『オルダニアの春』23・創作ファンタジー小説(約2500字)

          『オルダニアの春』22・創作ファンタジー小説(約2500字)

          第9話 生きるためには 「これからどうするのだ?」  不安や寂寥感を振り落とすように、リチャードはガスに尋ねた。  彼に連れられ急ぎ足に町を歩きながら、ここで暮らすのもよさそうだと思った。  戦禍を逃れた自由貿易都市なのだと聞いたことがある。どの通りにも精気に満ちた人々の顔があって、空気が暖かなオレンジ色に包まれている。南風が心地よい。  ここにはまだ、冬は到達していないようだ。『東の鉄壁城』にも、かつてはこんな季節があった。リチャードが、まだ何も恐れることなく、や

          『オルダニアの春』22・創作ファンタジー小説(約2500字)

          『オルダニアの春』21・創作ファンタジー小説(約2500字)

          第8話 火山と魔法使い  馬鹿げているとわかっていても、リチャードは、自分よりも知識が深く、頼り甲斐のある男に嫉妬していた。これまで自身を重ねていた格好の標的だったのに、気がつけば重ねることさえできないほど遠いところに背中がある。そんな印象を感じてしまう。  しかしガスの瞳には、どこか憂いを帯びた色があった。 「信じるものがひとつあれば、あとはすべて些細なことです」 「それを強さというのだ」  視線をまた海に投げ込みながら、リチャードは己を戒めた。  自分だって、ガ

          『オルダニアの春』21・創作ファンタジー小説(約2500字)