プロトタイプ完成。プロジェクト開始からの4ヶ月を振り返る
桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修・林ゼミが、授業の中で新しい木のおもちゃを開発する「子どもの好木心『発見・発掘』プロジェクト」。
4月のプロジェクト開始から3ヶ月が過ぎた7月24日、檜原村役場で開かれた中間報告会で、全13名の学生がおもちゃのプロトタイプを発表しました。
わずか4ヶ月という短い期間に木のおもちゃの試作品を作るーーータイトなスケジュールで進むプロジェクトに学生たちはどんな想いで向き合ったのか?
プロトタイプの完成という大きな区切りを迎えたタイミングで、制作に込めた想いやプロジェクトを通してのエピソードを伺いました。
※ なお、プロトタイプは今後商品化を目指すことから、写真の掲載ができません。ご了承ください。
檜原村の森と林業、子どもの興味・関心からデザインコンセプトを練り上げた
━━まずは先日発表したプロトタイプについて改めて説明していただけますか?
桶谷:車のおもちゃなんですが、平面から立体へ形が変化するものを作りました。設計図がそのまま完成形に一瞬で変われば面白いなという発想が元になってます。
組み立てという作業は頭を使い、脳の発達を促進するものです。車のおもちゃで、こうした組み立てるタイプは子ども向けではあまりないのでやってみたいと思いました。
━━作品のターゲットは?
桶谷:5歳以上の男の子。僕自身、それくらいから乗り物に興味が沸いたこともありますし、細かい作業ができるようになる年齢を意識しました。
━━おもちゃを収納するカバンが車を転がす坂道に変身することも面白いですね。
桶谷:子供が自分で運べて、後片付けもしてもらうよう工夫しました。親の負担を少しでも軽くしたいという裏テーマもあるんです。
━━池田さんのデザインコンセプトである“おもちゃ箱もおもちゃ”というのはどういう意味合いですか?
池田:プロジェクトの一環で幼稚園に行った時、ほとんどの子が楽しそうに遊んでいたんですが、中にその輪に入れない子もいたんです。
そういう子も座っているだけで楽しいおもちゃがあれば遊びに入れるんじゃないかと考え、座れる箱を考えました。
━━さらに、箱はおもちゃ箱でもあるんですよね?
池田:そうなんです。いろいろなおもちゃを収納しています。子どもはそれぞれ好きなことが違うと思うので、いろいろな子に遊んでほしいです。
━━サイズが結構大きいです…
池田:はい、家に置くとちょっと邪魔かなと感じる大きさで、買うのにためらうかもしれませんが、その欠点を補ってテーブルや椅子にもなるんです。おもちゃとして使わなくなっても活用できるものを目指しました。
━━笹川さんは木の素材感を活かしたんですね?
笹川:合宿で檜原村へ行った時、森や林業の話を聞き、木に触り、木自体を肌で感じ、素材としての木そのものの良さ、面白さを感じました。その感覚を表現したかったので、やすりをかけたくらいで、あえて加工も少なくしてます。
━━どんな遊びができるおもちゃを目指したんですか?
笹川:幼稚園を訪問した時、年中・年長さんだったと思いますが自分たちが想定した遊び方じゃない遊びをしてたんです。
木にやすりをかけてペンダントを作ったんですが、子どもたちはみんなそれを積み重ねて遊ぶんです。
その様子から、子どもは積み重ねるという行為が好きだし、友達と競うのも好きそうだなと思いました。それで、根っこをにテーブルに見立ていろんなルールを自分たちで決めてボードゲームのように遊べるものを考えました。
━━ターゲットは5歳前後の子どもとその家族…
笹川:実際幼稚園で見たのが5歳前後だったということもありますし、大きい根っこを中心に家族で遊べるものがいいと考えました。
お互いの作品に刺激を受ける
━━お互いの作品の作品を見る機会も多かったと思います。どのように感じますか?
桶谷:池田さんのは、いろいろなおもちゃがあって複数人で遊べるんですよ。遊べる人数を広げられることは家庭でも幼稚園でも使えるし、一つのおもちゃで繋がれるので、友達づくりのきっかけになると思います。
笹川さんのは土台の根っこが好きですね。これは大人目線ですが、あまり加工してないぶん、経年変化も楽しめるのかなと思います。
素材をテーマにしただけあって、色合いも良く、一番木らしいです。
━━池田さんから見た2人の作品はいかがですか?
池田:桶谷くんのは車が平面になることを知った時、強い衝撃を受けました。平面にするにはその構造がとても大変だったんじゃないかと思います。
また、箱自体を坂にして遊べるという点、細かいところまで考え工夫されていると思いました。
笹川さんのは根っこを活用してますが、根っこを使った商品はお店で見たことがないですから、パっと見のインパクトが大きいです。
だからいろんな子が遊んでくれそう。やすりをかけただけと言ってますが、それも大変だし、同じような感じで何個も作るのはとても根気のいる作業だと思いました。
━━笹川さんからはいかがでしょう?
笹川:池田さんは早い段階で形がどんどん出来上がって行きました。技術面ももちろんですが、計画性が優れてるんだなと思います。
あと、作業が夢に出てきたというあたりに熱量の高さを感じました!
池田:設計図ごと夢に出てきました…(笑)
笹川:箱の中のおもちゃもちゃんと作られていて、完成度が高いです。幼稚園でも家庭でも遊べるものだと思います。
桶谷くんは車が好きなことを聞いていたので、車なんだろうなと…。
ただ細かい作業だったのでどういうものが完成するのか分かりませんでしたが、平面から立体になって遊べる形になるのがすごいです。箱すら遊べるのもいいです。
プロジェクト開始からプロトタイプ完成まで4ヶ月。集中した先に達成感が残る
━━今回はわずか4ヶ月間の短期決戦。その中でアイデア出しに時間をかけたと聞いています。実際に作り始めたのは7月になってから。振り返ってみていかがですか?
桶谷:みんなが作り始めてからもアイデア出ししてました。紆余曲折が半端なかったです。
組み立て式なので蝶番をつけて稼動するんですけど、そこでつっかかったらアウトで、練り直しみたいのが何度もありました。
桶谷:平面を立体にすることというアイデア自体、7月2週目からです。間に合ったら奇跡かなってくらいの崖っぷちでした。計画性ないんですよ。
それに比べたら池田さんはあのサイズで1週間余らせて完成してるわけで…。
ボンドの接着は丸1日置かないと効かないんですけど…
池田:ボンドに関しては、行けると思ったタイミングで次の作業に行ってました(笑)
━━日数的には早く仕上がったとのことですが、1日の作業時間はどうだったんですか?
池田:1番長い日は工房に13時間いました。
━━皆さんはいかがですか?
桶谷:終盤の切羽詰まってる時は11時間いました。
笹川:私はそんなに一気にいたことはないですけど、土曜日に出てきたりとか、行ける時にやるみたいな感じでした。
池田:ゼミの授業にかけてました。作業の手順が常に頭の中にあって、それが夢に出てきたんですね…
ある程度、夢の中で作っていて、起きたらまだできてないみたいのが毎日でした。夢でシミュレーションは終わってるから、もう一回同じことをやるだけみたいな感じ…。自分でもわけ分からないですね(笑)
━━全体を通しての感想をお聞かせください。
桶谷:大学に入ってから一番時間の過ぎるのが早く感じました。他の授業もありましたけど、終盤はほとんどこっち。それだけかける気持ちが強かったです。
で、結果、仕上がってプレゼンして、なんとか一区切りがついて…
自分の中では成功でいいかなと思ってます。達成感があって、それが成長に繋がるんだと思ってます。
━━何か印象に残ってることはありますか?
桶谷:合宿はもちろんなんですけど、材料の木材を持ってきた時の関谷さんの車の中が印象に残ってます(笑)これで運転してきたんだと驚きました。そしてその木材を工房で広げたら半端ない量で!
池田:楽しかったです。森について、木について知ったからこそ、今まではただの木材だったものが、木材のどの部分なのかまで想像できるようになり、作ろうという気持ちがより高まりました。
毎日ずっと学校にいて、大変でしたが、その分やり切ったという達成感があります。
実はもう一個作りたいなって思ってます。木は奥が深いです。余った最後の1週間で設計図にはない、根張りや普段は触れない素材を使ったおもちゃを作って、木の良さがよく分かりました。
学ぶまでは知らなかったことばかりなので、それを伝えていきたいという思いが強くなってます。
笹川:プロジェクトは全部新鮮な期間でした。産官学の規模の大きいプロジェクトだったし、木を扱うのも初めて、ゼミで会う人たちも新しい人たちばかりという中で、工房に入って作業するのが楽しかったです。
やってよかったと思いますし、時間もあっという間でした。
合宿は大きな経験でした。初めの段階で木のことを一気に頭に入れることができて、それが作品に繋がったと思ってます。檜原は実際行ったのは合宿とこの前の発表だけでしたが、そんな感じがしないです。檜原の木を使って作ってるので、勝手に知ってる気になってます(笑)
プロジェクトは今後、学生たちによるプロトタイプからいくつか商品化を目指す作品を選定。
選ばれた作品は来年春の発売を目指し、約半年間のブラッシュアップを重ねて行きます。
このnoteではその様子もお伝えしますので、ぜひ、私たちと一緒に新しい木のおもちゃが出来上がる過程をお楽しみいただければと思います!