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読書【シェイクスピア50の謎】感想

『シェイクスピア50の謎』完読。

世界で一番有名で世界で一番謎に満ちた劇作家シェイクスピア。もともとは劇団の馬番で暇を持て余して同業の少年たちと《馬番団のシェイクスピアボーイズ》を結成して遊びで劇場敷地内で勝手に芝居ごっこをしていた。

そんな男が後に大作家に変身する。

シェイクスピア作品は専門知識の宝庫で著者はあらゆる学問と芸術を習得していると推測されるのに当の本人はほぼ無学(正確にはグラマー・スクールどまり)。

紳士階級や裕福な庶民しか通えなかったグラマー・スクールに行っていたのだから、ある程度の教養はある。という反論があるもののシェイクスピア作品は軍事、法律、宮廷遊戯などの挿話が多く、その知識は貴族階級でなければ知り得ない。

さらにウィリアム・シェイクスピアの生涯の記録には役者や裏方としての活躍ぶりや不動産に関する情報ばかりで文学的なものが不自然なほどに皆無。

そこで生まれたのがシェイクスピア別人説。

戸籍や不動産の情報はしっかりと残っているのでウィリアム・シェイクスピア自体は実際の人物。
しかし作品を書いたのは別の知識階級という説だ。候補にあがっているのが。

軍事経験のあるオックスフォード伯エドワード・ド・ヴァイ。

哲学者にして政治家のフランシス・ベーコン。

外交官のヘンリー・ネヴィル。

などなど50を超える。

1592年から1594年初頭にかけてイングランドを覆っていた黒い影、ペストの猛威がようやく下火になった。この間、ペストの感染を避けるため各地の劇場は封鎖されていた。

そのため多くの舞台役者は廃業に追い込まれ、そのまま演劇界から足を洗うものも居れば国外に活躍の場をもとめるものも居た。ペストの影響もなくなり、ようやく劇場が再開したのは1594年の中頃だった。

「庶民に夢と希望を!」

そう叫んだのはエリザベス女王。その命を受けたのはフランシス・ベーコン。

「夢と希望を!って言ってもねぇ。言うのは簡単だよ。言うのは。まだ、なんの準備も出来てないのに劇場再開宣言までしちゃてさー」

愚痴るベーコン。それを聞くのはオックスフォード伯エドワード。

「ま、それだけ期待されてるってコトだよ。もう一杯飲め」

エドワードはベーコンの杯にワインを注ぐ。

哲学者にして古典学者、法律家であり政治家であるベーコンを酔わせるのが、第17第オックスフォード伯エドワード・ド・ヴァイの楽しみのひとつだった。

なぜなら

「もぉ〜?ヤんなっちゃう!アたしはァ!他にやること沢山アんの!ホんと!女の気まぐれって大っっっ嫌い!」

と、ベーコンの中の女性が曝けでるからだ。

「女王様をつかまえて、女って」
「いーのよ!豪華な御召し物をはぎとりゃ中身は一緒よ!あの人たちはねぇ、何日も風呂に入らないで匂いを香水で誤魔化してんのよ!汗をかいたらサッと川水で身をあらう村の生娘のほうが、どれだけ綺麗だか」
「まるで村の生娘を抱いたことがあるような言い分だな」
「莫迦!アるわけナいでしょ!」

ベーコンとエドワードがワキャワキャと盛り上がっているところへ外交官のヘンリーがやってきた。

「おう、ベーコン。聞いたよ劇場再開の話。役者も作家もペストで逃げていないっていうのに」
「もー!ヤめてー!いまそれで頭がイたいんだから!」
「しかも、エリザベス女王は新作を求めてるらしいじゃないか」
「イやー!イわないでー!作家もイないっていうのに、ドぉすればイいのー」

一気にワインを飲み干すベーコン。

「マスター!カリッカリのベーコン持ってきてー!だれがカリッカリよ!」
これはベーコンのお決まりギャグ。

「新作?そうなのか?」

エドワードが聞き返す。

「らしいよ」
「そうか。だったらベーコン。俺たちが書けばいいんじゃないか?」
「アたしたちで?」
「そうだよ。俺とお前と、そしてヘンリーと」
「俺も?」
「でも役者は?まさか、舞台にもアたしたちが?」
「それは流石に無理だろ」
「当てはある」

運ばれてきたカリッカリのベーコンをつまんでエドワードが言う。

「『馬番団のシェイクスピアボーイズ』って知ってるか?演し物は酷かったけど演技は良かった。あいつらなら」

こうして。

オックスフォード伯エドワード・ド・ヴァイの軍事の知識と。

フランシス・ベーコンの一級の政治的思想と。

ヘンリー・ネヴィルの外交官としての経験を。

彩りゆたかに合わせもつ天才的戯曲作家ウィリアム・シェイクスピアは歴史の一部になった。

という説を僕は提唱したいと思う。

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