見出し画像

腐れ縁

 昨年8月から通っていた自動車教習所の入所式の日のことだ。
 コロナの関係上間隔をあけた席に、僕をはじめ、年様々な人が座っていた。
 入所式まであと五分くらいとなったところで所内全体に聞き覚えのある名前が響いた。
 ちいちゃんだった。
 ちいちゃんは小学校の同級生で、中学生の時少しだけ付き合っていた。別れてからも連絡を取り合って、たまに会っていたし、高校の時は共通のクズ先輩Sがいた(この先輩は本当にクズだった!)それで、しばらく連絡をとっていなかった。多分、大学入ってからは一度も。
 LINEの連絡先をぶわーっとスクロールし(そんなに「ともだち」はいない)彼女のトークルームを開き、「呼ばれた?」とLINEするとすぐに「呼ばれた」とLINEが返ってきた。
 僕がいる部屋にはどうやらいないのだが、同じ教習所で僕より先に入って免許を取ろうとしていたようだ。簡単な連絡をとっていると、どうやら終わる時間が一緒らしく、じゃあ一緒に帰ろうかとなった。

 「チョコいる?」
 「いる」
 久々に会ったちいちゃんはマスク越しでもわかる化粧の濃さだった。「久々〜」みたいな枕なしに、僕は小包のチョコをもらった。
 帰り道は特段記憶に残っている会話はなく、お互いに大学生になって免許をとろうとしていることだけを確認し合った。

 腐れ縁。

 クズ先輩Sと僕は高校の先輩後輩、ちいちゃんとSはSNSを介して知り合ったという。それで、教習所で偶々時間が被り館内アナウンスで再会。多分それがなかったら全く持って彼女と連絡を取り合うことはなかったと思う。

 僕は人間関係を切り捨てて生きてきた。
 「友達」と呼べる人のハードルが高く、本当に「友達」だと思える人はこういうときだからのメンバーと指を折るくらいしかいない。新生活をする度に旧い知人のことは忘れたことにして、知らない人として過ごしていた。高校は地元の高校じゃなかったから、成人式の日に集った同窓生はほとんど「知らない人」だった。
 正直、彼女との縁もいつの間にか切れていたと思っていた。街なかですれ違ってもきっと気付かないし(ちいちゃんは化粧こいし金髪になってたし、僕も髪染めてたからな!)、気づいても知らないふりをする。地元に長く住んでいるとそういうことが増えていく。つい数年前まで仲良く話していたのに、すれ違っても目を逸らす人が。
 僕は知らん顔が得意だから、多分相手も気づいているが話そうと思わないんだろう。話したくないし。
 でも、なんでかちいちゃんには連絡してしまった。顔を合わせたわけでないからスルーできたはずなのに。

 偶々の再会のあと、11月くらいだったかな、二人で近所のスシローに行った。
 懐かしい公園に行って、夜中、お酒を飲みながら遊具で遊んだら次の日筋肉痛になった。
 ああ、多分この人はなんかの度に僕の近くにあらわれるんだな。そう思った。
 だから、腐れ縁。

 帰り道、彼女の家まで送っていく途中、僕の家を通り過ぎた。
通り過ぎて1、2分、彼女の家に着いた。知ってはいたけど改めて互いの家の近さに二人で爆笑した。
そりゃあ会うこともあるだろう。

(文責・加藤)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?