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消えたナイフ

 不思議なこともあるもんだ。思わずそう呟いた。
 ある日の朝、ハードチーズを食べようとしていた。
 そうしたら、である。かれこれ10年以上は使い続けていた、愛用のナイフがないのだ。
 どこを探してもない。
 そもそも、持ち歩いて出かけるわけでもないので、失くしようがないのだ。
 まさに、突然に消え失せてしまったとしか言いようがない。
 不思議なこともあるもんだ。一人、呟かずにはいられなかった。
 
 そんなわけで、しかたなく新しいものを買うことにした。
 新しいものと言っても、買ったのはいままで使っていたナイフと全く同じもので、フランスの刃物メーカー、オピネルの折りたたみナイフだ。
 オピネルとは、とても安価な価格設定と抜群のコストパフォーマンスを誇る、ヨーロッパを中心に世界中で愛されている折りたたみナイフであり、あのパブロ・ピカソも好んで使っていた。
 1890年にジョセフ・オピネルが考案した原型をもとにして、現在でも、ほとんどその型を変えることなく生産されている工芸品である。
 オピネルの故郷フランスでは、レストランに行く際にこのナイフを持って行き、ステーキを切り分けたら、さっとナプキンで拭いてポケットにしまったり、バケットとオピネルを買って公園へピクニックに行き、帰りには他のゴミと一緒にオピネルも捨てて帰ってくるという話があるくらい、非常に馴染み深い生活道具なのだそうだ。(あいにく、俺はフランスには一度も行ったことがないので、この話が嘘かホントかはわからないが。)ちなみに、日本でこの真似をすると、日本の銃刀法(刃渡り60mm以上の刃物は携帯禁止)に引っかかって面倒なことになってしまうので、やらないほうが無難であろう。
 
 とにかく、今回はそのナイフを、それぞれサイズ違いで3本買った。

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