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ヒトにおける「予後不良」−−統合失調症をめぐる或るリカバリーストーリー−−

馬と中年


 これからのダービーの時期、人馬無事かウマの予後不良かで心を痛めるポストを多く見かけます。残念ながら使役動物の場合、予後不良とは安楽死を遠回しに意味します。

 私も統合失調症初発の頃、自ら回復を目指して趣味で乗馬に励んだ時期もあります。今のように重症化する前でしたしまだ前職のわずかな理解のあった、穏やかな時期でした。2000年代初めの頃でした。退院したてだったのです。

 環境が酷くなる頃に抵抗せず、悪化を受け容れて障害者雇用を今なら目指せたのですが、当時そうした制度が今ほど整備されていなかったのです。亡父からは通院の帰り、好きだったとんかつを食べながら「障害年金をもらって妹宅で食べさせてもらうか?」という言葉を頂いていました。

 振り返ると社会人人生を全うすることができずに健常者の暮らしをリタイアせざるを得なかったのです。職場の無理解には色々と思うところがありますがこの記事ではバッサリと割愛します。

 ヒトはどうやら、どん詰まりまでいかないと私のようなケースでは障害年金と障害者雇用の組み合わせに思い至らないようです。もっとこの社会資源は知られて良いし、もっと人として障害を持っていてもいきいきと暮らせるような社会になってほしいと願います。

 しかも私は婚期を逃してしまったため、あの幼なじみとはいつも同じ空の下、二度と会えない定めと相成ったのでした。それでも細々と乗馬レッスンだけは通い続けています。後述のWRAPに関わるものです。


ヒトの予後不良


 予後不良は統合失調症の診断書にも出る医学用語のひとつ。 見かけた時はショックでしたが、自分にできることが思いの外、減って努力しても一定の線以上元に戻らない。この状態であることを障害ということも知りました。

 たとえば事故で四肢欠損とか歩行不能とかあっても誰も当事者を責めません(おそらく)よね。人間には人権があるからでもあります。

 でも、うつ病や統合失調症(Sc)だとなぜ当事者は差別されるのでしょうか。医学的にもさじを投げられ、社会的にも人権を認められないかのような扱いですよね。

リカバリーとWRAP

 Sc等で当事者会でリカバリーという概念もあり、医学的には回復はムリとされる欠損を社会の中で自分らしく生きることで補うものです。

 もう一個付け加えるなら、WRAP(元気回復行動プラン、「ラップ」)といって自主的に、病気の症状が悪化したときに備えてあらかじめ、自分ならどうするか決めておくこともできます。

 元気なときは好天のもと、乗馬レッスンに出かけるのも私のWRAPです。危機的な状況で、私の場合は周囲の助言を受け入れ、いよいよダウンしそうだというときに障害者雇用先に連絡して、受診日を早める等しています。

 特に障害者雇用については、配慮して欲しいことと自分の弱み(発症のトリガー)、強みと回復方法を日頃から把握することも必要になってきます。

 リカバリーをめぐって私はピア活動に参加しており、研修の際に相談員としての心構えやWRAPについて書かれた翻訳書を読むときがあります。その中に「元気の道具箱」の一つとして「乗馬」が入っています。翻訳書なので現地とこの国では事情が異なります。欧米では乗馬はおそらく、この国でいうスキーや山登りのようなレクリエーションのたしなみです。

乗馬レッスンと馬の世話と障害者

 現代日本で一般に乗馬というと高級な趣味(趣味の王様は無線通信といいますが)に属するようです。それでもクラブの人に聞くと本当にいろんな立場の人達が乗馬クラブにきているようです。含みが深いのですが、乗馬は懐が深いなという印象です。どうやら、発達障害児や知的障害児のセラピーにも乗馬が有効かという研究論文も複数出ています。

https://core.ac.uk/download/80560254.pdf

 人馬無事で来た元競走馬(もちろん乗馬の馬として調教がなされています)に乗せていただけるのも感慨深いものがあります。身体障害者同様、精神障害者にも寛容な社会であって欲しいと思いを新たにします。

 

2023/12/29 ここまで

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