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淡さ

写真を撮ることが好きだと思う。
でもそれは、写真を撮ること自体が好きなのではない。
レンズ越しに見える世界が、今体験してる空気感とは違った、どこか物語の中に吸い込まれたような、そんな感覚に陥る。

その感覚を日常の中に取り入れた瞬間、当たり障りもない、ノイズじみた毎日に淡い色を入れていく。

特にフィルムカメラで見た世界の時。
フィルムカメラはそもそもシャッターを切った瞬間から現像するまでどんな世界になっているのかはわからない。フィルムの種類にも左右される。偶然と運命の狭間で出会い、駆け落ちたとき、物語の中に吸い込まれ、現像したあと、また別の物語へ変化する。

思い出は淡い色で脳内を駆け巡る。

フィルムは自分の脳内の思い出と呼ばれる淡い記憶を、鮮明に淡く呼び戻してくれる。

「淡い」は薄いやぼんやりしたという意味であるが、それを鮮明に思い出させるというなんとも矛盾した、しかしそれでいて、互いに連動し、フィルム写真ではないと出せない味わいをだし、物語の世界へ連れていく。

青にも赤にもいろいろな色に染まる思い出はどこかの流離の旅人が手にした時、新たな目的地と化す。