37 スカイ・ロード
下半身不随のカイザーは、当然足が動かない。どのくらいの障がいかわからないが、腰も麻痺があるなら、体を捻る動作は腕の力だけだ。
もちろん、障がい者にもアスリートがいることはわかっている。国際的な大会がいくつもあって、その中に水泳もあることは承知していた。
しかしカイザーが負傷してから一年足らず。わずか数か月で、腕だけで泳げるようになった?
足を使わないで泳ぐことと、足を使えないで泳ぐことは違う。無意識にかかる筋肉への緊張はまったく違うはずだ。
「見て来たら? っていうか用事あったんだろ? あぁ、ただ急に話しかけるな。たぶん聞こえてないだろうし、仮に聞こえても急に止まれない。無理に止めたら溺れることにもなりかねないから、エルセン中佐が止めたところで話しかけろ。いいな?」
「イエス・サー……」
「一番端のレーンで泳いでいるから、見ればすぐにわかる。腕だけで泳いでいるし」
スティーブンはそう言って笑いかけてきた。
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