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34 スカイ・ロード

 リハビリを終えてスティーブンを呼び、大型量販店へ連れて行ってもらった。
 ライムントに会って話をして本当によかったと思う。確かにカイザーは歩くことができなくなった。それが原因でパイロットの道を閉ざされてしまったし、日常生活に不便な事が増えた。
 けれどこの両手は動くし、見られる、喋られる。できることは多い。
 事故以来、お湯を沸かして珈琲を飲むということくらいしかしていなかった。鍋もフライパンもダンボールに入ったまま、かといって捨てに行くのも大変で、部屋の片隅に置かれたままだった。
 せっかく部屋の内装を車椅子用に修繕してもらい、キッチン周りも低くしてもらっているのだから、やってみようかな? という気になったのだ。
 今まで何もかもを失ったと錯覚していた。けれど失ったのは歩く機能だけだと気付かされる。
 車椅子でも料理はできると思ったため、ここへ来たのだ。
「しかし意外ですね、中佐。料理するなんて」
 スティーブンに持ってもらっているカゴには、いくつかの調味料が入っている。何を作るにせよ日持ちのするジャガイモやニンジンも入っていた。
「事故以来ずっとしていないから、手際は落ちただろうとは思う」
 何より料理をしている時は、その場にずっと立っているように見えるがそうではない。調味料を取るために横へ移動し、冷蔵へ向かい、棚から小麦粉を取り出すためにしゃがんで、食器を出すために腕を伸ばす。

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