44 スカイ・ロード
朝のトレーニングにあたる時間ではあったが、昨日注文していた参考書とデータ資料が届いたため、カイザーはジルを呼び出していた。勉強をするなら早い方がいい。
「失礼します」
「入れ」
ジルはトレーニングを終えた直後だったようだ。首からタオルを下げている。
「気温もだいぶ高くなってきたことだし、走る時間は調整しろよ。熱中症になる」
小言は嫌われるとわかってはいるが、ジルは時々ムキになって行動することがある。短い付き合いながらわかってきたことなので注意をすると、ジルは少しむっとした顔をしたけれど素直に頷いた。
「わかってるっすよ。で、なんすか?」
ジルはこめかみを伝う汗をタオルで拭きながら近付いてきた。
「あぁ、これ持っていけ」
「はぁ?」
テーブルの端に積み上げた参考書とデータ資料を指差す。受け取ったジルは顔色を変えた。
「……あの、こ、これって」
視線が参考書に釘付けになっている。大尉昇格試験に関する資料だということはすぐにわかったらしい。この様子では特に昇進について考えていなかったようだ。
「昇進試験まで三か月もない。経験上、この参考書が一番わかりやすかった」
軍事に関する参考書など、一般的な書店では販売されていない。こうした書籍は軍事施設内だけで販売されている。また転売防止のため、書籍のシリアルナンバーは携帯端末機に記録されるようになっている。
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