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10 スカイ・ロード

 目を覚ますと、まだ薄暗くぼんやりとした闇が病室を支配していた。
 カイザーはうつろな眼差しで天井を見上げたまま、静かに息を吐いた。
 毎朝、明け方近くに夢を見る。
 あの日の光景だ。カイザーが最後に空を飛んだあの夜。そして撃墜されたあの夜の夢。
 夢は寸分たがわず、同じ光景を見せ付ける。スクランブル要請を受けた第一飛行隊が、あの月のない夜に飛びだったあの日。
 所属不明のステルス戦闘機とのドッグファイト。そして失速し、コントロールを失ったカイザーの機体目掛けて撃ち込まれたミサイル。
 回避するために、エジェクションボタンを押していた。
 脱出そのものは出来た。しかし海面からの上昇気流と爆風が、パラシュートをもみくちゃにした。
 あとはもう記憶にない。
 そして目覚めたその日から、カイザーの心には大きすぎる穴が開いて、埋められない。
「っ……」
 胸が痛い。両手をブランケットから出して顔を覆う。口元を押さえていなければ、嗚咽が病室の外へと漏れてしまう。
 あの夜からすでに一ヶ月近くたとうとしていた。カイザーの意識が戻ったのは十日前。
 それまでは医療ポッドの中で集中治療を行われていたため、カイザーは薬による人為的なこん睡状態に陥っており、三週間近く目覚めることはなかった。
 外科的な治療が終わり、医療ポッドを出た翌日には、薬からも覚めてカイザーは自分が生きていることを知った。
 そして同時にパイロットとしては死んだことも知った。

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