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38 スカイ・ロード

 あの日……カイザーが泳いでいる姿を見かけた日。ジルは禁煙をした。
 それまでなんとなく煙草を吸っていた。特に吸いたかったものではなかったけれど、周囲が吸っていたのでなんとなくはじめた喫煙だったが、喫煙により心肺機能が低下するのは空軍兵士じゃなくてもわかっていることだった。
 自分はなぜ空軍にいる? なぜパイロットになった?
 それこそただ空を飛びたいだけなら、民間の航空会社でもいい。そうしなかったのは、この国を守りたいという気持ちが少なからずともあったからだ。
 現状に甘んじていてはいけない。グレイアウトが怖いなら、グレイアウトしない体づくりをするしかない。
 食べる物や生活習慣を見直し、煙草もやめた。劇的に何かが変わるわけじゃない。
 それでもやらないよりましだ。
 機体を上昇させながらロール。もうすでにスティーブンの機体は真下を通りすぎ、その後ろをヘンリソンが執拗に追い詰めていく。
 こちらはオラーシオとかちあった。どちらが先にオーバーシュートするかで勝敗が決まる。
 上昇すること、ロールをすることで空気抵抗は凄まじい。酸素マスクをしていても酸欠のために息苦しく、押しつぶされそうだった。
 頭がクラクラする。グレイアウトが始まり、視野が暗く染まり始める。いつもならここで諦める。
「ここだ、撃て」
「!」
 カイザーが言うタイミングに合わせて、機銃を撃つ。しかしそこにはオラーシオも誰もない空間と思った次の瞬間、オラーシオの機体が機銃の前に飛び出した。

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