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36 スカイ・ロード

 午前中はお互いにトレーニングに時間を当てていた。とはいっても、カイザーは下半身不在のため、特にすることもないだろう。
 そう思ったので、西棟のFCOSのオペレーションルームを尋ねたのに、そこの主は不在だった。
「どこ行ったんだろ……」
 携帯端末機にはお互いのナンバーを登録してある。けれど仕事でもなければ呼び出したくない。カイザーもまた仕事以外で利用していない。
「フランク? エルセン中佐なら今日は来てないぞ」
「え?」
「午後からだって。って、おまえ一緒に飛ぶんだからわかっているだろ?」
 管制塔へ続く扉から出てきたヴィクトル・ハルロフ中佐が話しかけてきた。ハルロフ中佐は管制官だ。その他、ここでは通信士としての役目も果たす。少ない人員で構成される開発設計局は、スクランブル発信がない分、兼業作業者が多い。
「あぁ、それはわかっているんですけど、午前中はどこにいるのかと……ここかな? と思ってきたんですが」
「トレーニングルームじゃないのか?」
「トレーニングルーム? え、でも」
 車椅子なのに? という台詞は寸でのところで飲み込んだけれど、言っても言わなくても同じだった。なぜなら心底呆れたというような溜め息をハルロフが漏らしたからだ。

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