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Set Freeter 2

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セットフリーターの仕事なんて、絶対にお断りだ! 僕は平和に平凡な生活を満喫するんだ。そう言い張って美佐子さんに抵抗した僕だけど、その平和の象徴である学校で僕は事件に巻き込まれてし… もっと読む
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2021年8月の記事一覧

15 さよなら、僕の平和な日々よ

 まず僕は黒田からメールをもらったあと、稲元に電話をする。そして、今僕がマックにいるように話す。稲元が出るか、電話に気付いた犯人が出るかどうかはわからない。もしかしたら、音を消していたり、電源が入ってなかったりして、誰もスマホの存在に気づかないかもしれない。ま、そのときはそのときだ。  それで電話に出た場合、僕がマックにいるってことにすれば、少なくとも犯人側はこの学校内に生徒や教師はいないと知り、少しは警戒心も薄くなるだろう。警戒心が薄くなれば、僕も動きやすい。  手当たり次

14 さよなら、僕の平和な日々よ

『あたしは準備が整ったらそっちに行くわ』 「えっ……来るの?」 『助かりたいんでしょ。あたしに従いなさい。とりあえず今言ったことを一時間以内に完了させて。そっちが身の安全を一時的にでも確保できる場所についたら、あたしにメールでもいいから連絡して頂戴。それを合図にそっちに行くわ』 「了解……でもさ、本当に大丈夫なの?」 『しつこい』  美佐子さんは言いたいだけ言うと、唐突に通話を切った。まったく……本当に自分勝手な人なんだから。  さてと……どうするかな?  まずは確かに状況を

13 さよなら、僕の平和な日々よ

 僕の脳裡には、あの暑苦しい稲元の「柿本ぉぉ!」という叫びが蘇る。 「い、稲元が!」  驚きすぎて大声をあげた。僕ははっとしたように口もとを押さえ、再びトーンを落とした。  どこからどう見ても政治家の孫という雰囲気はない。まぁ、雰囲気で政治家になるわけじゃないけどさ?  ということは、昨夜のあの豪腕な黄門様は、稲元の実のお祖父ちゃん!  うわ、似てねぇ。政治家の孫が、あれかよ。なんて言っちゃ、さすがに稲元には悪いか。 『わかった? 依頼が入っているから、警察にはお世話になりた

12 さよなら、僕の平和な日々よ

 トイレは危険………犯人たちも人間ならば、生理的な欲求には逆らえない。いつトイレに来るのかわからない。教室はある意味安全だが、僕にとっても敵にとっても広すぎて警戒しにくいところだ。安全とは言い難い。  どこだ……?  どこが安全だ?  少なくとも僕が自由に動けそうなところは……  音楽室なんて……どうだろう?  少なくとも防音なので、物音や声が漏れにくいはずだ。これだけで僕の行動制限が少なくなる。ただそれだけに、僕が敵に気付きにくいという短所も持ち合わせるが、長居をしなければ

11 さよなら、僕の平和な日々よ

 仮に電話してくれたとしても、僕が頼んだ通りにはしてくれないだろう。きっと、テロリストが占領しているとか、毒ガスが散布されているとか、あることないこと話したあげく、最後には僕のせいにするんだろう。  警察相手にそんなことしたら、虚偽の説明をしたとかなんとかで、きっとお説教を食らう。その程度で済めばいいが、悪ければ警察のご厄介になることは確実だろう。  自分のことは自分でする。よし、そうしよう!  僕は深呼吸を何度かして気持ちを落ち着かせようとした。  が、そう簡単には怒りは収

10 さよなら、僕の平和な日々よ

 しかしその足音の人物は、こともあろうにこの教室に入ってきた。 「!」  そして明かりを付けた。  やはり声が聞こえたんだろうか?  僕は息を殺してじっとしていた。この瞬間は、十秒にも満たないだろうが、僕には十分にも二十分にも感じられた。  やがて足音は遠ざかった。僕は口もとに手を当てて、少しずつ息を吐いた。額が汗でびっしょりしていた。  足音はまだそう遠くない。各教室に入っては明かりをつけているようだった。  僕は切ってしまったスマホを見た。すくなくともすぐにかけ直すことは

09 さよなら、僕の平和な日々よ

 しかし相手は動かなかった。僕の手は緊張して汗がびっしょりだ。 「……」  心臓が痛いくらいに強く鼓動を刻む。息が苦しい。 「……」  頼む、一言でいい。何かしゃべってくれ。  僕の願いが通じたのかどうかわからないが、相手は歩き出し一人言を呟いた。 「おかしいなぁ………誰かいたと思ったんだが」 「!」  やった! これは多分用務員のおじさんの声だ! 「お……」  僕は用具入れを出ようとした。そしておじさんと声をかけて、110番してくれるように頼もうとした。  だが、 「おい!