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Set Freeter 2

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セットフリーターの仕事なんて、絶対にお断りだ! 僕は平和に平凡な生活を満喫するんだ。そう言い張って美佐子さんに抵抗した僕だけど、その平和の象徴である学校で僕は事件に巻き込まれてし… もっと読む
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2021年7月の記事一覧

08 さよなら、僕の平和な日々よ

「バスケとか興味ないわけ?」  と、北山が聞いてきた。確かにメンバーが五人ぎりぎりしかいない弱小バスケ部に、もう一人控えの選手が増えれば、試合運びは楽になることだろう。  僕に対する見え透いた勧誘なのだろう。久しぶりだなぁ、勧誘を受けるの。  しかし僕は苦笑しながら、否定するように首を振った。 「悪いけどさ、部活はできない。家がアンティーク・ショップやっているんだけど、店番頼まれることが多いんだ。それも前もって一言、言ってくれればいいのに、その日の朝になって頼むもんだから、部

07 さよなら、僕の平和な日々よ

 試合の前半はぼろぼろだった。原因はやはり僕のせいだろう。試合の流れにまったく慣れていない僕は、頭ではわかっているものの、体がついていかないのだ。体力的にではない。ついていけないのはスピードと、動きのキレだ。  普段遊びや授業でやった程度のものは、しょせん球取り合戦だ。ルールなどおかまいなしに、ボールが渡ったたらゴールするだけ。  ルールのほとんどを知らない僕は、もちろん反則の嵐で、あと一回反則したら退場だ。  僕が違反を取るたびに、稲元は泣きそうな顔でルールについて説明して

06 さよなら、僕の平和な日々よ

 僕は中学のころ、柔道部に所属していた。空手部も合気道部も存在しなかったからだ。  そのため学校行事の一環で、柔道のちょっとした大会に出たこともある。チーム全体での総合優勝経験も一応あるが、僕の習ってきたものは、柔道ではなく合気道と空手なので、個人では結局大きな大会では成果を果たせたことはない。  それでも一応経験者にはなるので、普通なら高校でも柔道部に所属していてもおかしくはないのだが、僕は部活動の類いは一切行っていない。  そのわけは、中学の頃に起因していた。  というの

05 さよなら、僕の平和な日々よ

 翌朝の美佐子さんの機嫌は、急転直下的に悪かった。もちろん、僕は取り合う暇もなく学校に来たのだが、この分だと家に帰っても不機嫌なことだろう。  まぁ、いいさ。どうせセットフリーターの仕事を受ければ、近いうちに家を留守にするだろう。仕事を終えるまで顔を見なければ、そのうち機嫌も直るだろう。  本日、すべての授業を終えた僕は、モップを片手にだらだらと教室の掃除をしていた。  さて……今日は何を食べようかなぁ……なんて考えていると、時々空しくなる。 「良一、良一!」  振り返ると黒

04 さよなら、僕の平和な日々よ

「馬鹿、違うわよ。そっちじゃないわ」  美佐子さんの冷ややかな視線を受けて、僕の頬は引きつった。これ以上ない程引きつったさ! 「……」  やはりな……僕は男性になんとか会釈をすると、美佐子さんの腕をつかんで奥へと引っ張った。 「ちょっ、何するのよ!」  美佐子さんは僕の腕を振り払った。僕の頬は限界ギリギリまで引きつり、苦虫をガムのように噛み砕いたかのような、危険な笑顔を浮かべていた。 「美佐子さん? 僕、ちゃんと言ったよね? アンティーク・ショップの仕事は手伝うよって? でも