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履歴書を育てる。

僕は最初に働いたシェフに言われた忘れられない言葉がある。

『世界に通用する技術を身に付けろ』

『塩は喉の奥で感じろ』

『履歴書は意識して育てろ』

この3つだ。この3つが今の僕を作っている。当時まだ20歳そこそこの僕にこの言葉の本当の意味は分からなかった。でも今はなんとなくその本質が分かってきたかの様に感じるのでここに記しておこうと思う。

初めの2つは主に料理人としてだ。


『世界に通用する技術を身に付けろ』

フランス料理をやるからにはフランスにも行くだろう。その時言葉ができれば良いが、そうじゃない場合もある。そんな時お前を助けてくれるのは言葉よりも技術だ。異国の地で本当の意味で自分を助けてくれるのは身に付けた技術だけ。だからなるべく早く技術を身に付けろ。それも世界で通用する本物の技術だ。それさえあればどこで何をしてもうまく行く。俺もそうだった。



『塩は喉の奥で感じろ』

塩味は喉の奥で感じろ。口の中で感じるのは食感と刺激、そして複合的な意味での旨味だ。塩味の本質は喉の奥を通り抜ける瞬間だ。その瞬間の心地良さを見逃すな。塩で全てが決まる。これが出来ない限り良い料理人にはなれない。技術がある事と美味い料理が作れる事は全くの別物だ。


この2つを20歳から意識した事で僕は意識高く修行ができ、求められるものが多いほど、厳しく管理されるほど、『まだ足りない、まだ足りない。』と常に高みを目指せた。

これは各業界の言葉に直して言えることだと思う。そして良い意味で環境さえあればあまり意識しなくても出来る事。でも履歴書を育てるという事は自分で考えなければいけない。


履歴書を育てるとは?


履歴書を育てる。そんな言葉を聞いた事はなかった。履歴書は自分が働いてきた過去(結果)であり、未来のものではない。と思っていたからだ。

しかしシェフは僕にこう言った。

最終的にどんなシェフになりたいかを早くから考えろ。その為に必要な事はなんなのか?どの店で何を学ばなければいけないのか。

フランスに行くならどこで働くのか?パリかリヨンかブルターニュか?そこで働いた価値を自分の店でどう発揮するのか。そこまで考えろ。

履歴書は過去のまとめじゃない。未来に繋がる道しるべだ。常に新しく書き足していけ。そして全てにストーリーを持たせろ。それがお前だけの武器になる。未来は作って行くものだ。

それまで履歴書なんて意識したことがなかったけれど、これがきっかけで履歴書は作るもの、育てるものという感覚になった。自分が次に働く場所も何と無くではなく、明確に意識して選ぶように。

この感覚を持ってからは日々の仕事に対する意識変わった。

シェフはフランス時代にどのような写真を撮っておくかも考えていた。自分がシェフになり取材されたらこの時の写真を使って話をしよう。この時の写真が自分を語ってくれる。そんな風に考えて働いていたらしい。

だから僕も毎日の退屈なルーティーンの様な仕事も捉え方次第でストーリーになると考えた。毎日牡蠣を100個近く開ける作業は大変だったけど、1年間で3万個の牡蠣を開けていたからこそ、僕は牡蠣の事に詳しくて牡蠣料理が大好きなんです。と語れる様になる。

日々積み重ねる仕事は、積み重ねた人間にしか語れない。一見無駄な様なところに自分にしか作れない何かがある。大抵は辛く大変な事、めんどくさくて飽きてしまいがちな事、誰がやっても変わらないと思う事、こうゆう事を愚直に続ける中で見えてくる学びや、その経験自体をコンテンツ化する事。

こうゆう感覚を持つと一分一秒全てが貴重な時間になる。1日でも早くこの感覚を身に付けることが他者との差別化になり、1日86400秒の差が生まれる。確実に差がつくのだ。そしてそれは毎日続けた者が圧倒的に強くなる。

だから僕は、目に見えない誰かが常に最上を目指して日々を過ごしている。と心の中に思う様にしている。


小さな変化に喜びを


とはいえみんながみんな自分を追い込みたいわけじゃない。そんなのは出来る人が限られている!と思う人もいるでしょう。その通りだと思う。

でも日々の中で自分の成長や変化を感じられる機会は作った方が良いのではないか?と僕は考えている。日々の変化は小さくとも、1ヶ月でどれだけのことができる様になったかや、去年の自分と比べてこんな風に考える事が出来るようになった、感じられるようになった。というのは自分では気付きにくい。

何故ならば、他者と自分を比べる事が多く、出来るようになった事よりも出来ていない事へと意識を向けてしまうからだ。それは本当に勿体無い。

今の自分の現在地を把握して、そこから自分が日々どう変化しているかは定点観測してみると良い。きっと自分の成長に喜びを感じられるはず。

何気ない当たり前の日々の中での小さな自分の変化をそっと褒めてあげよう。そして同じ様に仲間の小さな変化にも声をかけてみよう。きっとそうやって僕たちは自分の変化と他人の変化に気付いていけるんだと思う。

履歴書を育てるという事は、自分を育てる事と同義です。なりたい自分になる為にどんな未来を描くのか。そしてその未来を履歴書という形に残していく。自分にしか書けない履歴書がきっとあなたにもあるはずです。

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