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彼と彼女のNight Tea

「秋ってさ、月見ながら団子食うよね。あれなんだっけ?」

『え?十五夜のこと?』

「そう!それそれ。月見なんかしたことないけど。人間ってさ、縄文時代から月を愛でる風習があったらしいよ。」

『本当?月はいつの時代も見られるもんね。昔の人も、夜中に空を見上げてたのかなぁ。なんだか不思議。』

「永遠なんかないけど、永遠に近いほど変わらないよね。平安時代にはさ、貴族が盃の酒に映る月を見て楽しんでたんだって。」

『なにそれお洒落!っていうかなんでそんなに詳しいの(笑)」

『なんかの本で読んだだけ。明日さ、満月なんだって。月見でもしようよ。平安時代の貴族気分で。」

『それ賛成!けど私お酒弱いから飲めないよ?』

「お酒じゃなくてもいいよ。紅茶は?」

『好き!ナイトティーだね。』

「ナイトティー!またお洒落な呼び方で(笑)」

『23時頃に飲む紅茶タイムをナイトティーって呼ぶんですぅ(笑)』

「では明日はナイトティーといきますか。僕ら平安貴族より健全だね(笑)」



そうして私たちは秋のお月見をすることにした。暖かい紅茶をカップに注ぎ、平安貴族を習って紅茶に月を浮かべる。ゆらゆらと揺れる金色の月を見ながら、この人となら千年先でも一緒に月を見られそうだな、なんて思った。


「ねぇ、来年も再来年も、僕らおじいちゃんおばあちゃんになっても変わらずこうして紅茶を飲みながら月を見るってどう?」

不意に言われた言葉に、一瞬あたまが追いつかなかった。

「…どうですか?」

私が息を飲んで固まっていると、少し不安そうなあなた。嬉しさで震える声で、こう答えた。

『それ、とってもいい提案ね。何年も、何十年も、何百年も、月がある限り一緒に見れるもの。よろこんで!』


幸せの涙と最高の笑顔。そして、二人を包む豊かな紅茶の香り。この先ケンカをする日があっても、今日のことを思い出して夜には紅茶を飲んで仲直りしようね。煌々と存在する月の下、二人で小さな約束をした。


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サポートとても嬉しいです。凹んだ時や、人の幸せを素直に喜べない”ひねくれ期”に、心を丸くしてくれるようなものにあてさせていただきます。先日、ティラミスと珈琲を頂きました。なんだか少し、心が優しくなれた気がします。