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中田敦彦が示すこれからの教育のヒント

はじめに

「中田敦彦のYouTube大学」をご存じでしょうか?

オリエンタルラジオの中田敦彦さんが、歴史や文学、現代政治など様々なジャンルの“授業”を行うチャンネルです。四月に本格的に動画配信し始めてから、破竹の勢いでチャンネル登録者数が伸びています。

これが、マジで面白いんです。
まったく知らなかった、改めて詳しく知りたい、知ることから逃げてきた…etc
そんなジャンルを幅広く取り扱っていて、知的好奇心をぐりぐりと刺激してくれます。

というか、動画として面白い。
授業の動画は「エクストリーム授業」というのですが、スピード感が心地よく、そして笑える。ちなみに当方はゲラです。

こんなのが無料で転がってる時代って…もう…
ちなみに僕のおすすめは、「三四郎」と「日韓関係」、そして「古事記」のエクストリーム授業。ぜひご覧ください。

そんなあっちゃんの授業を見て、教育に興味がある者としてある考えが浮かびました。

「あっちゃんは、これからの教育のヒントを示している」

今回は、そんな内容の記事です。

教師としての中田敦彦

お笑い芸人ではなく、教師としてのあっちゃんはどのような特徴があるのか。
大きく3つまとめてみました。

教師と芸人のハーフ

とりあえず、一つ目はこれですよ。そもそもが芸人さんですもんね。
授業での喋りのテンポ、例えや小芝居など、普通の教師のそれではない。(そりゃそう)

日本史の授業で、元寇で押し寄せた元軍の規模を「さいたまスーパーアリーナから一万人はみ出してる」ってサラッと表現する先生なかなかいないですよ。

加えて、あっちゃんの授業中の口癖にも注目したい。
「これ面白いでしょ」「これさ、俺もびっくりしたんだけど」と、ところどころで問いかけてくれることで、こっちまでなんか面白く感じてくる。

勉強に対して「楽しい」という感情を抱かせてあげる存在は、教師の鑑ではありませんか。
ワクワクしながら学ぶのとイヤイヤで学ぶのとでは、学習効果に差が出そう…って、なんとなく想像できますよね。実際に、ストレス感情による脳機能の低下が原因で大きな差が生まれるようです。

脳科学的な視点とかもありますけど、それ以前に笑いによって勉強が苦にならないなんて、シンプルに最高じゃないですか。

まさに、教師と芸人のハーフ。強い。

「何のために勉強するの」なんて言わせない

勉強をしたがらない子どもたちの常套句
「これ勉強して、何になるん?」
あっちゃんの授業では、授業の後半に「これを学ぶと、これがより面白く感じられる」「だからこそ今、これを学ぶべきなんだ」という、勉強の意義付けを欠かさず伝えてくれます。

これ、めちゃくちゃ大事じゃないですか。
しかも、膨大な学習範囲を扱う学校教育においては、ここをきちんと伝えることが(やむなくも)おざなりにされることも多く、だからこそ子どもたちは上の常套句に似た“疑問”を抱くようになってしまう。

「日韓関係」を扱った授業動画は、賛否両論を呼びました。YouTube大学の動画の中では珍しいほどの数の低評価もついています。
この動画の中で響いたのは、後編の終盤でのこの言葉。

「我々は全部を知ったうえで、YesかNoか判断しなくてはならない。」
「私たちが選んだ政治家の人が選んだトップが言う発言は、私たちの発言として世界には捉えられえる。私たちは一体なにを考えるのか。」

センシティブな内容で、あっちゃん自身も気を使ったと動画内で話していました。
「センシティブだから」と言って勉強することをどこか避けてしまう人も多くいるでしょう。僕もそうでした。
でも、知らないでは済まされないと気づかされます。

現代社会を学ぶためには、当事者意識が必要なのだと思っていましたが、逆なのかもしれません。
自分たちを取り巻く社会や歴史を、一歩踏み出して学び始めるからこそ、当事者意識が生まれ、知る責任をますます感じるようになるのでしょう。
あっちゃんの授業を見て、そう思いました。

きっかけづくりにこだわる

正直、これを一番書きたかった。
上二つに比べてちょい長くなります。

突然ですが、アドラー心理学に「課題の分離」という考え方があります。
「自分にできることと、他人(他人自身)しかできないことは分けて考えよう」という考え方なんですが、これは僕が読んだ本に書いてあった“ある国のことわざ”をそのまま載せる方が分かりやすいと思います。

「馬を水辺に連れていくことはできるが、水を呑ませることはできない」
馬が水を呑むきっかけは作ることができる(自分の課題)が、実際に水を飲むかどうかは馬自身が決める(馬の課題)ということです。

結局、人が勉強するかどうかはその人の課題であって、教師自身の課題ではありません。
教師の課題は、生徒が「学びたい」と思えるきっかけ、あるいは選択肢を作ることなのではないでしょうか。

あっちゃん自身もある動画のコメント欄で「ここは諸説あるから丁寧に教えるべき」「一人の著者が書いた本のみを参考文献として使うのはどうなのか」という意見が出たとき、
「歴史に関しての諸説や、いろいろな意見はあるけれども、それはコメント欄で言っていただいて、まずは知るきっかけを持ってほしい」ということを話していました。
あっちゃん自身、最初からきっかけづくりのために動画を作っているのです。

あっちゃんの日本史の授業は、スピードと面白さ重視でした。
おそらく、日本史という内容が、義務教育を通った者なら一通りは習った分野だからであると思います。
一通りなんとなく知っているから、改めて受ける“学びなおし授業”ではすべての詳細を網羅することよりも興味を掻き立てることに注力できたのでしょう。
学びなおしのきっかけづくりです。

一方、日韓関係や日本政治に関しての授業は、人生でまだ一度も深く掘り下げて考えたことのない視聴者もいるでしょう。
これらの授業は、まったく触れたことのない知識ほぼゼロの人でもある程度の仕組みや背景が理解できるような、ありがたい動画になっています。
学び初めのきっかけづくりです。

僕たちは何かを学ぶとき、予備知識が1つでも有るか無いかで抵抗感が大きく変わります。
つまり、最初の一歩目が一番踏み出しにくい。

地図で名前を見つけただけの、まったく未知の国へ旅に出るのはかなりの恐怖を感じます。
でも、そこが自分の親族が暮らしている国であることを知っていれば、少しは恐怖が和らぎませんか。

また、自分が何を学びたいのか、何になら興味を持てるのか。
学習の第一歩となるそれらを知るには、まず様々な分野に触れるきっかけが必要です。

そのきっかけ、つまり一歩目は楽しい体験であるに越したことはない。
楽しく強烈であればあるほど、その後の学習意欲は高まります。
そうなれば、ムチで叩いて教えるような存在がいなくても、自ら学びを深めていくものです。

あっちゃんが一貫して目指している「きっかけづくり」は、人に何かを教えるときに最も意識すべきことではないでしょうか。

学校の先生はこれを見習え!とはならない

ここまで「あっちゃんカッコイー!」と書き連ねてきたわけですが、一つだけ書き加えておきたいことがあります。

それは、「あっちゃんの教師像は、あくまで学校とは異なるフィールドだからこそ実現される教師像であって、今の学校教育に取って代わる存在であるとはまだ言えない。」ということです。

つまり、今の日本の学校教育はクソだ!世の先生はあっちゃんみたいな教え方を見習え!などと言いたいわけではありません。

上でも書いたように、日本史の解説授業はあっちゃんが重要だと考えた出来事、脈絡を捉えるうえで重要なポイントに絞って解説していました。
そのためかなりコンパクトで、あっちゃんの流暢な喋りもあって、縄文時代から令和時代までの範囲が1本約20分✖11本の動画に収まっています。
もちろん内容も面白い。(どういうことよホント)
このスピード感があるからこそ引き込まれ、集中を切らすことなく楽しめるのです。

このような授業は、義務教育を終えた後でも知的好奇心を満たす意欲が湧いた人、あるいは学校教育についていけなくなってしまった人だと、よりハマる授業ではないでしょうか。

しかしそれは、中学レベルの歴史の予備知識があってこそ楽しめる内容です。
受験などで出題される学習範囲を抜け目なく網羅することが課せられた学校の通年授業での展開は、当然ながらかなり難しいでしょう。

こういった意味で、あっちゃんの授業は学校教育に取って代わるものではなく、学校教育の手の届かない所をカバーする存在であると考えます。

また、日本の学校教育はよく「平均化」と言われます。ちょっと皮肉交じりの言葉だと思うので、ここでは「ニガテをなくす教え方」と言い換えます。苦手な科目を伸ばして、全科目で70点取れるような人になろう、というニュアンスです。
生徒が嫌がるニガテ科目の授業もちゃんと取り組ませて、ニガテのままでもいいから解けるようにさせる。大変な仕事です。

では、あっちゃんの授業を上のように表現するとどうでしょうか。
「トクイ(スキ)を伸ばす教え方」ではないでしょうか。
40点の科目が一つあっても、トクイな科目を100点にできればいいじゃない!というニュアンスです。
興味を持って食いついてきた生徒たちをとことん楽しませるけど、本人が食いついてこない(動画を見ない)のなら強要することはしない。

ニガテをつぶすこととトクイを伸ばすこと、もちろん二つとも重要です。こういった意味でも、学校教育とあっちゃんの授業は単純比較はできないと考えます。

これからの教師像

まとめに入ります。あとちょっとです。

やっぱり結論、あっちゃんのような教師がもっと幅広く増えてほしい。そう思います。

あっちゃんが増えてほしい、は実現不可能です。2019年現在、ヒトクローンの製造はアウトです。

上に挙げた3つの特徴は、これからの教育においてますます必要になると思います。
特に、きっかけづくり

これからは「全教科70点」よりも「一教科100点」のほうが、
「言われたことだけキチンとこなす子」より「言われなくてもやりたいことを見つけてのめり込む子」の方が強い。
言われたことをきちんとこなす能力ではロボットに到底勝てない時代、平均的な人間よりもある分野に尖った人間に価値が生まれる時代になるからです。

好奇心旺盛なお子さんを持つ親御さん、あるいはご自身が好奇心旺盛なお子さんだった方はお分かりであると思いますが、結局子どもは興味を持てば大人が強いなくても学び、そしてのめり込むのです。
必要なのは、きっかけです。

何回も言いますが、学校での教育は必要です。上で述べたように、ニガテに取り組むことも大事ですし、クラスのように密な人間関係を経験することも大切だからです。(これに関しては思うところもありますが)

ならば…子どもたちの学びの場として、YouTube大学のような「学びのきっかけがゴロゴロ転がっている場所」の選択肢が増えてほしい!学校とは別の場所に!

既存の学校にこの役割を求めるのはキャパオーバーでしょうよ!
調べた限り、学校の先生って今すでにめちゃくちゃ大変だもん!

なら他に作ろうよ!!ていうか、俺も作るわ!!

選ぶか選ばないかは子どもたちの自由。自分にはまるものがあれば、それをきっかけに突っ込んでいく。
好奇心が無限大の子どもたちこそ、このような場所が、教師が、必要だと思います。

きっかけづくりにこだわる「教師・中田敦彦」
彼を見て、そんなことを思いました。

おわり

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