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自分の仁義を貫けば道は開ける(『菜根譚』前集四十二)

今回取り上げるのは『菜根譚』前集四十二からの言葉。

彼は富ならば我は仁、彼は爵ならば我は義なり
(読み:カレはフならばワレはジン、カレはシャクならばワレはギなり)

『菜根譚』前集四十二

相手が富の力でくるのならば私は仁の徳で対抗し、相手が身分や地位の力でくるのならば私は義に則った正しい道で対抗する、という意味。

つまり、どのような相手や状況であっても、自分の仁義の心を大切にすれば道は開ける、ということですね。


この言葉は、皆様もよくご存知の、とある有名な古典の言葉を踏まえたものです。

どの古典か分かりますでしょうか?

正解は・・・

そう、『孟子』です。

具体的には、以下の言葉を念頭に置いた言葉となっています。

彼は其の富を以てし、我は吾が仁を以てす。
(読み:カレはソのトミをモッてし、ワレはワがジンをモッてす)

彼は其の爵を以てし、我は吾が義を以てす。
(読み:カレはソのシャクをモッてし、ワレはワがギをモッてす)

『孟子』公孫丑、下

意味はどちらも同じですが、『菜根譚』の方がスッキリしている印象ですね。

『菜根譚』の著者である洪自誠(こうじせい)は明末の人で、儒教・仏教・道教に通じていました。

その片鱗が、こういった言葉の端々に見え隠れしています。

誰もが知るような古典の言葉を踏まえることで、筆者の主張に奥行きが生まれ、言葉に深みが生まれるのです。

当時の知識人たちも、この言葉を目にした瞬間、「あ、『孟子』を踏まえて言っているな」と分かったわけですね。

私たちも、発言をする際に偉人の言葉を引用したり、故事成語を使ったりしますが、あれと同じイメージです。


さて、少し話が逸れてしまいましたが、今回は「仁義の心を大切にすれば道は開ける」という言葉をご紹介しています。

それでは、どうして仁義の心を大切にすると道が開けるのでしょうか?

それは、自分の強い意志が逆境を跳ね除け、運を引き寄せるからです。

仁義の心を大切にするということは、自身の意志や意見を大切にするということ。

ですが、日本のように同調圧力の強い社会では、自分の意志を貫くことはとても難しいものです。

「どうして〇〇さんはやらないの?」
「お前にそんなことは無理だよ」

自分はやりたくないのに無理やり参加させられたり、自分はやってみたいと思っているのに頭ごなしに否定してきたり。

それでも自分の意志を貫こうとすると、周囲から心無い批判をされてしまうこともあるかもしれません。

少なくとも、私はそのようなことを何度か経験しました。

このnoteだってそうです。

noteを始める前、私は会社の知り合いに次のような相談をしたことがあります。

「古典や歴史が好きだから色々な人に知って欲しいんだけど、これまで古典に触れてこなかった人にとって、いきなり中国古典を読むのは少しハードルが高いと思うんだよね。だから、そのハードルを少しでも下げられるような記事を書いて、多くの人が気軽に古典に触れられるようにしたいんだ」

すると、相手はすぐさま次のように答えました。

「なるほど。でも古典とか歴史ってエンタメ以外だと需要がないから、やめておいたほうがいいよ」

もともと歴史とか古典に興味がないみたいだったので、そもそも相談相手として適当ではなかったのですが、このときの私は「需要がない」という言葉に地味にショックを受けていました。

「そんなに古典や歴史って需要ないのかな……。面白いし為になると思っているのは私だけ?」

そんなふうに悩んだものです。

ですが、私は自分の感覚を信じてみることにしました。

「少なくとも私は興味を持っているのだから、世の中に何人かは同じように興味を持ってくれる人もいるはず。もしも記事を書くことで、その人たちの役に立つことができたら、それで十分だよね」

と考えて、自分の意志を貫くことにしたのです。

その結果、ありがたくも今では多くの方に記事を読んでいただけるようになりました。

自分なりの仁義の心、つまりは自分の意志、自分が信じる道を大事にしたことで、前に進むことができたのだと思います。

もしもあのとき、相手からの言葉を受け入れて諦めていたら、このnoteを1年半も続けることはできなかったでしょう。

読んでくださっている皆様、いつも本当にありがとうございます!


私の話ばかりになってしまいましたが、自分の意志を大切にすれば、運命を切り開くことができます。

洪自誠も以下のように述べています。

人定まらば天に勝ち、志一ならば気を動かす
(読み:ヒトサダまらばテンにカち、ココロザシイツならばキをウゴかす)

『菜根譚』前集四十二

人の心が定まると天命に打ち勝つことができ、志が一つに決まると気持ちを前に進ませることができる、と。

周囲の意見や圧力に流されることなく、自分の意志や自分が信じる道を貫くことが大事なのです。

私は自分の意志を貫くことで、「古典や歴史について分かりやすく発信する」という未来を掴むことができました。

皆様も何か新しいことに挑戦しようとして、周囲の人に反対されたり、色々言われたりすることがあるかもしれません。

ですが、あくまでも周囲の意見は周囲の意見です。

中には参考にすべきものもあるかもしれませんが、それによって、あなた自身の意見や気持ちを無視するべきではないと思います。

やりたいと思ったら、自分を信じてやってみる。

仮に失敗したとしても、そこで得た経験や知識をもとにもう一度やってみれば良いのです。

まずはご自身の気持ちを大事にして、周囲の意見に引っ張られすぎないようにしていきたいですね。

彼は富ならば我は仁、彼は爵ならば我は義なり
(読み:カレはフならばワレはジン、カレはシャクならばワレはギなり)

『菜根譚』前集四十二

今回は、どのような相手や状況であっても、自分の仁義の心を大切にすれば道は開ける、という意味の言葉をご紹介しました。

「仁」は思いやりで、「義」は正しいと思う道です。

「誰かのために何かしてあげたい」
「自分はこっちの方が正しいと思う」

そのように感じたときには、ぜひご自身の意志を尊重してあげてください。

周囲の圧力に負けず、誰もが自分らしく生きていける世の中になれば良いですね。

それでは今回はここまで。

また次の記事でお会いしましょう👋


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