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「十九本の矢」に込められた、一致団結して支え合うことの大切さ【教養を深める中国古典のお便り】

皆様、こんにちは!

メンバーシップ向け特典記事の「古典のお便り」9通目になります。

こちらのシリーズでは、普段の記事では取り扱っていない古典・史書から、さまざまな名言をお届けします。

今回取り上げる古典は、『資治通鑑』です。

『資治通鑑』は、北宋時代(960-1279年)の司馬光(しばこう)による歴史書になります。

『史記』とは異なり、編年体で書かれていることが特徴です。

編年体とは、いわゆる年表のような形式のこと。

「2024年4月に〇〇が××をした」というような形で、年数ごとに歴史的事実が記述されています。

一方の『史記』は紀伝体という、いわゆる伝記形式の記述です。

中国初めての正史として『史記』が登場して以降、正史の編纂では基本的に紀伝体が踏襲されてきました。

しかし、紀伝体での記述は「誰が何をしたか」は分かりやすいものの、全体を俯瞰して把握するのが難しい、という欠点もあります。

その点、『資治通鑑』は、戦国時代の始まりから五代末の後周に至るまでの約1300年間の歴史を編年体で記しているので、中国史の流れを把握するのに適した歴史書です。

それまでの正史の記述を見直し、中国史の流れが分かりやすいようにまとめ上げた司馬光の手腕は高く評価されており、『資治通鑑』は今日でも重要な歴史書となっています。

というわけで、9回目となる今回は、司馬光の『資治通鑑』から名言をご紹介します。

記事の最後には、漢文に関する学びも記載していますので、最後まで読んでいただけますと嬉しいです。


『資治通鑑』に学ぶ

今回取り上げるのは『資治通鑑』宋紀・文帝元嘉元年からの言葉。

孤なれば則ち折れ易く、衆なれば則ち摧け難し
(読み:コなればスナワちオれヤスく、シュウなればスナワちクダけガタし)

『資治通鑑』宋紀・文帝元嘉元年

人は一人では折れやすく脆いものだが、大勢で一致団結すれば容易に砕けるものではない、という意味。

とある国の王様が、自分の子供達に向けて語った言葉です。

当時は兄弟同士で骨肉の争いになることは当たり前。

しかも、争いが長引けば国力の低下を招き、ひいては国家の滅亡につながりかねません。

王様はそのような事態を防ぐために、子供たちに向けて「手と手を取り合って、一致団結して周辺国家に立ち向かうのだ」と語ったわけですね。

チームで一丸となって取り組むことの大切さを教えてくれています。


骨肉の争いを憂えた王様の「十九本の矢」

もう少し詳しく見ていきましょう。

この「とある国」というのは、吐谷渾(とよくこん)という国のことです。

五胡十六国時代から唐代にかけて青海地方に存在し、周辺異民族を打倒して領土を広げた強国です。

場所としては、チベット高原の北東部あたりになります。

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