リース契約の定義概観
「リースって何?」という話題があったので、リース契約について改めて考えてみる。
リースの概要
詳細はリース事業協会の説明を参照。
当事者
リースは、
実際にリース物件を使うユーザー・レッシー
リース物件をユーザーに提供するレッサー(リース事業者)
リース物件の供給者(メーカー、卸売業者など)であるサプライヤー
の三者の間で行われるのが一般的な形になる。
一般的には
レッサー・サプライヤー間の契約は通常の売買契約を基礎とし、契約不適合責任、修繕・保守・メンテナンスについて特約が付されることが多い。
そしてユーザー・レッサー間の契約をリース契約という。
購入費用負担分割のためのリース
ユーザーによる高額な物件の購入費を分割したいニーズから、ユーザーとサプライヤーの間でリース事業者が起用されることが典型になる。
リース事業者はリース物件を調達し、それをユーザーに一定期間にわたって分割支払いとする条件で提供する。(このときの契約のタイトルは「リース契約」となることが多い)
この場合のリース契約はいわゆるオペレーティング・リース、ファイナンス・リースどちらもありうる。
個人的な経験でいうと、自動車などディーラーが確立している場合や、ユーザーグループにリース会社がいる場合は調達係としてユーザーがリース事業者にコンタクトする事が多く、それ以外ではユーザーがリース事業者を探してくるケースは稀で、サプライヤー側の代理店的な立場を担っているリース事業者が起用されるパターンが多い(パソコンメーカーと協業してLCM(Lifecycle Management)サービスを提供する事業者など)。
この場合は、リース事業者はリース物件の保守・メンテナンスサービスを提供することがある。ただし実際の保守・メンテナンスサービスは、(サプライヤー以外の)外注先がほとんど担っていることもある。
なお、複合機のリースなどでは、メーカーグループのリース企業がメーカーの代理人としてリース契約を締結する場合がある。この場合は当事者は三者だが、実質的には二者間のリース契約となる。
捉えようによっては、リース会社はメーカーに代わって代金を回収する代金収納委託を受けているとも取れる。
資金調達のためのリース
主に不動産において、セール・アンド・リースバックという方法がとられることがある。
典型的には、ユーザーが自己の不動産(自己所有の建物など)をリース事業者に売却し、同時にリースしてもらう(リースバック)。使用実態に変化はない。
こうすることで、ユーザーは売却により一時的に資金を調達することができる。シャープの本社ビル売却が記憶に新しい。
リース物件の典型
典型的には、事業用の自動車、建設用の重機、製造用の機械設備、その他大型あるいは高額な機械器具、が対象になる。
プログラムを対象とするリースも存在する。
※2006年と古いものであるが、プログラム・リースの法的問題については岡村・尾原「プログラム・リースをめぐる法律問題」において、著作権の移転・使用許諾の観点から検討されている。
セール・アンド・リースバックを除いて、不動産を対象にする際はリースとは言わず、通常の賃貸借という。
リース契約の特徴
リース契約は、「レッサーが調達した(自己の所有物にした)リース物件を、ユーザーに一定の期間、分割支払で使用させる契約」であるため、賃貸借契約を基礎とする。
しかし、リース物件の契約不適合責任、修繕・保守・メンテナンスについては、サプライヤーが直接責任を負い、レッサーは関与しないという条件になることが多い。
※レッサー・サプライヤー間において、ユーザーのこれらの求めに応じるとする内容は、レッサーがユーザーのために設定する第三者のためにする契約(民537)とみることは可能だろう。
一方、プログラムリースの場合は、無体物は賃貸借契約の対象とならないため、使用許諾契約を基礎とする。
最近ではプログラムではなく、クラウドサービスの使用権そのものをリースの対象とするケースもある。
ただ、データのようなコンテンツを対象とするケースは聞いたことがない(今後出てくるかもしれない)。
「リース」の定義の探索
現在の法令で、リース契約を明確に定義したものはない。
賃貸借契約を基礎として発展しているので、賃貸借契約の定義を確認しておく。
リースがこれから外れるのは、必ずしも物件を返還するとは限らないこと(所有権移転リースの存在)、修繕義務(民606条)を貸主が負うとは限らないこと、などである。
なお解約については、解約権の定めが無い限り、期間の定めのある賃貸借契約は契約期間中の中途解約はできないのが原則である(借主の使用収益権の要請から)。
裁判例
判例の中では以下のような言及がなされているものがある。
このような金融的性質を基礎として、各種の規制や解釈が積み上げられている。
経産省も特に違和感なく「リース」という言葉を用いている。
犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)
犯収法においてはファイナンス・リースを念頭に、特定事業者、特定業務として行為規制を課している。
法人税法
法人税法第八款は「リース取引」と題され、一方で「リース取引」の定義が存在しない。
国税庁の通達などでも定義は見当たらないが、「リース取引についての取扱いの概要」では「資産の賃貸借(次の「資産の賃貸借から除かれるものの範囲」に掲げるものを除きます。)のうち、次の要件のすべてを満たすもの」としている。
会計基準(リース会計基準)
リース会計基準では以下のような定義がなされている。
平成19年にできた基準であるが、前述の最高裁の定義をほぼそのまま踏襲している。
企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」では、以下のような定義をしている。
もともと賃貸借契約を念頭に「使用収益する権利」を中心にしつつも賃貸借契約とは明言していなかったが、有体物を対象とする所有権がちらつく「所有」の言及がなくなっている。
これにより対象はプログラムなどの無体物を含むあらゆるリース物件に広がるだろうが、そうすると従来リース契約とは見られていなかった契約を、当事者の権利から見直してリース契約としてみる必要性がでる可能性がある(代理店を挟んだライセンス契約あたりが怪しい)。
民法(債権関係)の改正にあたっての検討
最終的に必要性や無用な法定化への反発から見送られたが、債権法改正時に典型契約化が検討されている。
詳細については高橋めぐみ「ファイナンス・リースと民法(債権関係)改正」を参照。
平成25年2月26日中間試案では以下のような案が提示された。
これに対し、公益社団法人リース事業協会は提言書などで反対を表明した。
その主な理由として、以下を挙げている。
経済界において安定的にファイナンス・リース取引が行われている中であえて法制化する必要がない
法制化された場合には様々な弊害が出て リース取引を委縮させ、わが国の自由な経済活動を阻害する
弊害については6つ挙げている。
民法に定めるファイナンス・リースに該当するか否かが不明確であるため、その適用の有無について法的紛争リスクが高まることにより、有効な設備投資手段であるリース契約が締結しづらくなる
民法の規定は規範的作用を及ぼすため、ユーザー側においても、リース契約の都度、民法に定めるファイナンス・リースに該当するか否かを検証する等の過重な事務負担と 多大なコストが必要となり、ユーザーに不要な支出を強いる
現在、中小企業者及び一定額以下のリース契約について認められているオフバランス処理が出来なくなる恐れがあり、オンバランス処理になればユーザーの利便性を著しく損なう
各種法令で定める賃貸借等にファイナンス・リースが該当するか否かの疑義が生じ法令上の解釈を巡る争い等が生じる
ユーザーの倒産処理において、これまではリース物件を使用し続けながら事業再生を 図ってきた事例があるにも関わらず、今後、リース物件の使用継続が困難となる恐れが ある
民法の適用の疑義により、リース債権の流動化が困難になるなど、ユーザーがこれまでのような低廉なリース料でのリース契約の締結が出来なくなる恐れがある
米国統一商事法典(UCC)
アメリカにおける実質的な連邦商事法となるUCCにおいて、ARTICLE 2Aにリースが定められている。
ここでの定義では、「物品(goodは、金銭、書類、無形資産などを除く動産と定義されている)を使用する権利を移転すること」である。
(j) "Lease" means a transfer of the right to possession and use of goods for a term in return for consideration, but a sale, including a sale on approval or a sale or return, or retention or creation of a security interest is not a lease. Unless the context clearly indicates otherwise, the term includes a sublease.
レンタルとリースの違い
賃貸借としての違いはなく、およそ短期または少額である場合をレンタル、そうでない場合をリースとする使い分け、金融的効果や付随サービスの有無を強調する場合はリース、とする使い分けが多いと思われる。
アメリカにおいても、「rent」は比較的短期の賃貸契約に関連し、「lease」はより長期の賃貸契約に関連する用語として使われるとされる。またアパートの賃貸は「renting an apartment」といわれる。
ただし貸し借りに関してはhireを使う場面もある。
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