“ズルい“法務・“イイ“法務
法務を担当する人に相談にいったとき、なんとなく「相談して良かった」「相談して無駄たった」と感じることがあると思います。それはなぜかと考えてみました。
ビジネスは無限のピースからの選択
ビジネスは商材・人材・流行・タイミング・資金・投資・予測・戦略・パートナーetc、様々な要因の組み合わせを決定しながら行います。
無限とも思える選択肢の中、最善と思う選択肢を選び、実行することがビジネスです。
要因は様々な見方ができますが、大きく2つ、「推進要素」と「阻害要素」があると捉えることができます。
推進要素は「選ぶと良い効果が得られるもの」です。例えばタピオカが流行ったとき、商材にタピオカを選ぶ事は推進要素です(「流行」も組み込んだものとも言えます)。
一方、阻害要素は「選ぶと悪い効果が出るもの」です。「選んではいけないもの」はこれに含まれますが、全てではありません。
例えば違法になるもの(ねずみ講などのビジネスモデル、薬物など免許が必要な商品、医師や弁護士など資格者でないとやれない行為など)はたった1つでビジネスを不成立にします。
一方で投資などは投資対象に対する評価によって、「今やるべきではない!」と阻害要素に捉える人もいれば、「今やるべきだ!」と推進要素に捉える人もいます。タピオカの例で言えば、「今すぐ売れば儲かる」と捉える人もいれば、「ブームだからすぐ売れなくなり、投資した設備が負債になる」と捉える人もいます。
不確定性が悪い方向に向かうものが阻害要素といえ、リスクと言われます。
人間は悲観的に考えることが得意
リスクを考える事は実は簡単です。人間は悲観的に考えることが得意だからです。
何かをしようとするとき、「ああなったらどうしよう」「こうだった嫌だな」と真っ先に考えてはしまいませんか?
生来の楽観的な性格である人は別にして、楽観的に考えることは難しいのです。訓練すればある程度できるようになりますが。
法務は悲観的に考えるスペシャリスト
法務という仕事をする人間はリスクを捉えることに長け、その訓練を実務で受け続けた「ネガティブのプロ」です。
法務になる人間はほぼ大学の法学部で法律を学び、場合によっては法科大学院に行き、優秀な人は司法試験に合格して弁護士資格を持っています。
この過程では「問題が発生した事例」を山のように見せられ、そこに存在した問題点、リスク、解決法を徹底的に学びます。
ただしここでの「解決法」は「法律に沿った=ある種絵空事・綺麗事な」解決法で、「一応は違法でない複数の方法の中から最適なものを選択する」という観点ではありません。
またはじめに述べた「ビジネスを組み立てること」を経験する事はほぼなく、「これはここがダメ」と言うのは得意ですが「どうすべき」を考えることが苦手です。
これが冒頭の「相談して良かった」「相談して無駄たった」と感じるときがある原因です。
“ズルい“法務=評論家
法務に相談すると、「この点が違法」と言ってくれるならば諦めがつきますが、「この点は違法となる可能性がある」「この点はコンプライアンス的に問題がある」など、はっきりしない回答を受けるときがよくあります。
相談者が「ではこうするとどうか」など修正しても、同じように「コンプライアンス的に〜」などはっきりしない回答に終始することがあります。
いい加減頭に来て「ではどうすればいいのか」と相談者が問いかけると、「それは現場が考えることだ」と返されます。言い分は正しいとは理解しつつも、この逃げ方は「ズルい」と感じるでしょう。
こうなってしまうと「正解を求める現場」と「正解になる問題を求める法務」という、お互い歩み寄れないデッドロックになります。
このようなタイプの法務は法律の道しか経験がなく、現場的な経験がない人にありがちです。
“イイ“法務の危険性
逆に考えると現場にとって“イイ“法務とは、
①現場の質問に○✖︎(白黒はっきり)をつけてくれる
②「どうすればいいのか」「どうすべきか」を答えてくれる
という人になります。
これは一見すると単純に喜ばしい人材と思うのですが、①②いずれにおいても、冒頭の「ビジネスの多様性・不確実性」をきちんと理解せずに回答している人は非常に危険です。
ビジネスに正解はありません。法律も全ての事象を網羅などしていません。
それなのに全てのビジネスに○✖︎はつけられるでしょうか?示された「どうすべきか」は本当に妥当でしょうか?
さらにいうならば、②に関してはできる法務人材ならばやれてしまいます。しかし逆にいうと現場が妥当なビジネス設計・判断ができないといういびつな人材構造や、タイムリーな対応ができないという危険を生みます。
正解はないとしても、妥当な判断の必要性と材料は必ず現場にあります。
これをバックオフィスでしかない法務が正確に捉えている保証はありません。
法務は性質上、ビジネス判断の上流にいることが多く、権限を持っていると捉えられがちですが、過度に権限を与えるべき存在であるとは限りません。
皆さんの会社に法務組織があったときは、どのような人材で、どのような権限が与えられているかを見極めて、付き合い方を考えた方が良いでしょう。
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