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スクラム論

先日こちらの記事を書いてみたところ、思いの外反響がありとても驚きました。

それほどにFWに関する情報が世間には不足しているのかなと感じ、Twitterで改めて確認してみたところそのような傾向がありそうでしたので、今回はスクラムについてガシガシ書いていきたいと思います。

この記事を通して伝えたいメッセージ

僕は毎回記事のまとめが微妙になりがちなので、先に明確にしておきたいと思います。

・スクラムは体重の勝負では無い

・FW目線のアウトプットが増えてほしい

この二つが僕がこの記事を書いている理由です。どうかこれを皮切りにスクラムやラインアウトの理論がもっとオープンになりますように。

スクラムの構造

戦術的な考え方やスキルについて書いていくにあたって、重要となる構造からまずは説明していきたいと思います。

対面の左側に頭を入れて組むこと
崩れないようにお互いに協力しなければならないこと
フッキングをしなければならないこと

他にも様々あるかもしれませんが、僕はこの辺りを一番重視してスクラムの戦術を考えています。

・対面の左側に頭を入れて組むこと
だけからでも考えられることはたくさんあります。
まず、この構造的に1番は相手の3番としか接触しないこと。
2番と3番は相手に頭を挟まれるということがわかります。

また、対面の左側といっても頭を入れる位置は分類することができると思います。
対面の頭に限りなく近づくのか、それとも左側の選手の頭に近づいていくのか。はたまた、対面と左側の選手の肩が接触している部分に頭を置くのか。
この位置どりだけでも大きな差が生まれます。

・崩れないように互いに協力すること
これがラグビーの他のプレーとは一番異なり、加減の難しいところだと思います。
と、同時にここがスクラムの醍醐味であることは間違い無いでしょう。
スクラムを崩してしまうと、コラプシングという反則を取られてしまいます。
そのため、自分のチームが崩したと思われることは避けたいと考えるのは当然です。
しかし、ここで全くアクションを起こさなければ、体重の勝負になってしまいます。
そこで、必要となるのは「こちらは崩そうとはしていないが、相手にとっては崩さざるを得ないほど辛い」という状況を作り出すことです。
この辺りは後述するエネルギー出力の話とも絡んできますので、そこで詳しく説明します。

・フッキングしなければならないこと
僕の中ではこれは現代スクラムを考える上でかなり大きな要素です。
数年前まではフッキングは義務ではありませんでした。しかし、ルール改正によってフッキングが義務になったことで、グラウンドについている脚の本数が16vs15になる瞬間が絶対に発生するようになりました。
摩擦という観点でも、総エネルギー出力量的にも、グラウンドについている脚は多ければ多いほど有利なので、DF側はスクラムで戦うチャンスが増えたように思います。


スクラムコンセプト

細かいスキルは最小限に抑えつつ全体として何が必要なのかという部分について考えていこうと思います。

スクラムとは8人と8人の押し合いです。
単純に考えれば、総体重が重い方が押されづらく有利でしょう。
ある程度のレベル以上では筋肉量が体重と比例することはほぼ間違い無いので、体重が重いチームの方がパワフルであることも多く、体重は正義だとも言えます。

しかし、これはお互いが100%のエネルギーを出力して押し合えば。の話です。
つまり、相手に100%を出させなければ、体重が軽くても勝機は十分にあります。

まず、エネルギー出力について考えますが、これの大部分はロックによるものです。
そしてロックから出力されたエネルギーはフロントローの体を通って相手へと伝わります。
この時背筋がしっかりと伸びている方が、背中が曲がっているよりもエネルギーをよく通すので、いい姿勢をとることはとても重要です。

そのため、スクラムを考えるにあたっての一番大きなコンセプトはこのようになります。

こちらの画像のコンセプトの欄には上記のこと、具体的な手段の欄にはこれを遂行するための方法を記しています。

相手の脚を曲げるというのは、前回記事に書いた通り、脚を何度から何度に伸ばす時が一番エネルギーを使うかという話につながります。
組んだ瞬間に相手の膝を90度以下まで曲げさせることができれば、この時点で相手は100%のエネルギー出力ができなくなります。これは主に組む前から、組んだ瞬間あたりで結果の決まる部分ですので、スクラムにおける一番最初の勝負となります。

次に、首や腕に圧力をかけるという部分です。
少し危ない香りがしますが、続けます。
今から出来る限り首を下に曲げてください。デスクワーク続きの方にはいいストレッチになると思います。
冗談はさておき、ある一定の範囲を超えるとかなり体に負担がかかったのでは無いでしょうか。その範囲を超えて下を向こうとすると、背中を曲げざるを得ないと思います。
これを相手にさせるというのが首に圧力をかけるということです。

次に、腕に圧力をかけるという点です。ここはあまりピンとこないかもしれません。
これは特に3番に必要なスキルとなりますが、相手の1番の左腕を3番の右腕で押さえこむと、相手の1番の首には先ほどの上下の圧力以外にも間接的に左右の圧力が生まれます。
かなり辛い状況になります。
この状況から100%の力を出すのはなかなかに厳しい状況となるのでこうしたスキルも駆け引きの要素として重要になって来ます。


常に相手より低く組むという項目ですが、これはかなりよく言われていることなのでイメージしやすいと思います。
これはシンプルに、地面からの反発を得るために低くなりましょうということです。
体が地面に平行になればなるほど、スパイクと地面の摩擦は弱くなりやすくなります。そこで、空振りをしないためにもしっかりとスパイクを地面に刺して摩擦を大きく保ちながら押すことを考えると、相手よりも低い位置から相手を斜め上に向かって押す方がエネルギー出力がしやすいという結論に至ります。

一瞬細かいスキルに飛んでしまいましたが、ここからの二項目が一番重要です。

自分たちのバインドは絶対に外さない。言葉を変えると、強くバインドする。一つの塊になるということです。
自分たちのバインドがゆるゆるだというのはつまり、密度が低いということです。
化学?物理?でいうと密度が低いものといえば液体や気体です。密度が高いものは固体です。
どちらが強いかというのは歴然ですよね。固体は液体や気体の中を通っていくことができますが、逆はありません。

要するに、バインドが弱ければ、相手に割られてしまうということです。
一度割られてしまうと、出力したエネルギーを一点に集中することは難しいので、割られないことが最低限必要になります。


最後に、押す方向の共有です。
よくこれは時計の1時方向だと言われたりします。
逆に11時に押そうとすると1番の頭は半分出ているため、エネルギー出力的な面でいうと弱くなってしまうということも一つの理由としてあります。
他にも、両サイドに頭がある相手3番に対して圧力をかける。ひいては相手1番をスクラムから追い出す。などの理由もあります。

この組み方は一つのオーソドックスな形です。

逆に全体としては1時方向に押しつつ、3番は12時方向に押すという考え方もあります。
これはなぜかたまにPRから邪道だといわれることもあるのですが、3番を攻撃の主体として考える組み方です。
3番の構造的な特徴として、両サイドに相手の頭があることをあげました。これはハードであると同時に「二人にアプローチできる」ということでもあります。
相手1番を右胸と右腕で封じ込めつつ、相手HOを頭や左肩で上に突き上げるというアクションが可能になります。
これが成功すると、相手1番は下に、相手HOは上に向かうので必然的に相手のスクラムは崩壊します

今文中で少し触れましたが、スクラムを押す方向は左右だけではなく、上下という概念も存在します。3番は下に、他の選手は上に。など色々なベクトルで考える余地はあるのでこちらは構造をもとにチームオリジナルのものを作れるのではないかと思います。


スクラムの戦術(実際の流れ)

ここまで色々と細かいコンセプトについて書いて来ましたが、スクラムの本質的な部分は流れを追うことで一番理解できると思うので、フェイズごとに説明してこの記事を終わりにしたいと思います。
細かい話は省略するので上述のコンセプトと照らし合せながら解釈していただけると助かります。

組む前

・味方と強いバインドをする。
・スパイクのすべてのポイントが地面に刺さっているようにする。
・先に低くなり、ベストな間合いをとる。

「クラウチ」

・すでに低いので特に変化なし。

「バインド」

・相手よりも先にバインドする。
・腕を斜め上に向かってつっぱり、全体重をかける
・組んだ瞬間に有利な頭のポジションを取れるように頭を使って押し合い
・FL、LO、NO.8は膝をあげていつでもヒットできるようにする。

「セット」

・相手よりも早く入って、レフェリーにマークされたポイントを素早く超える
・ヒットしてすぐに伸びきった脚をベストポジションに戻す。
・組んですぐに腕や頭でファイトする。

ボールイン

・ここがラストチャンス
・この瞬間にもう一度膝を思い切り伸ばす。


ざっくりと以上のような流れになります。
分量の都合、説明の難易度の都合上、割愛した部分も多くありますので、気になる点がございましたらコメントなどで問い合わせていただければと思います。

レフェリーの立ち位置や傾向を考慮した組み方など色々と細かい部分はありますが、重要なものから順に書きました。

乱文、駄文失礼いたしました。

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