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[物語詩]「赤いクレヨン」

すーちゃんは 絵を描くのが大好きです
いつも 窓から見えるお庭の花や空や飛ぶ虫たちを
十二色のクレヨンを使い 上手に色を重ね合わせて描いていました

時々 すーちゃんはお花を大きく描きたくなって
お庭に出たいと言うのですが おかあさんは許してくれません
すーちゃんは おなかのずっと奥に病気があって 風邪を引きやすいのです
でも すーちゃんが外に出たいと言った時には
おかあさんがお庭の花を花瓶に差して お部屋に持ってきてくれます
そうした時に すーちゃんは 空色に塗った画用紙の真ん中に
そのお花を大きく描くのでした

その年もいつもと変りなく お家の庭には季節の花々が咲きました
冬の終わりには赤い椿の花が咲き
春の初めには淡いピンク色の桜が咲きました
五月には藤棚から青紫の花房が幾つも垂れ
梅雨になると青い紫陽花が雨に濡れました
また 夏の日差しが強くなってきた頃には
桃色の羽毛のような合歓の花が咲きました

そうして 九月になりました
お庭には真っ赤な彼岸花が咲いています
すーちゃんは 燃えるような彼岸花を描きたくて どうしようもありません
でも 赤いクレヨンがとても短くなっていて 描くことができません
すーちゃんはおかあさんに 「赤いクレヨンが短くなって塗れないの。」と言いました
おかあさんは 「明日、町に買い物に行った時に買ってきてあげる。」と言いました
すーちゃんは 早く明日が来ればいいなと思いました
そして 待ち切れなくて
画用紙に薄緑色をした彼岸花の茎と水色のお空を描きました
明日 おかあさんが買い物から帰ってきたら
画用紙の真ん中に真っ赤なお花を幾つも描けると思うと
すーちゃんは嬉しくてしょうがありません

その日の夜のことです
すーちゃんは急に体の力が抜けて 起き上がることができなくなりました
意識が薄れる中で すーちゃんは
「私の病気が悪くなれば、明日、おかあさんが赤いクレヨンを買いに行けなくなる。どうしよう。どうしよう。」
と何度も言っていました
そして 夜遅くに町の病院に運ばれて
次の日に すーちゃんは青いお空に吸われていってしまいました

さて すーちゃんがいなくなったので お家にはおかあさんが一人ぼっちです
お庭では彼岸花の季節が終わって 赤紫や白のコスモスが風に揺れています
すーちゃんのお部屋はというと すーちゃんがいた時と同じように
窓際の座卓の上に 画用紙とクレヨンの箱が置かれています
そして クレヨンの箱に中には 他の十一色のクレヨンに並んで
真新しい赤いクレヨンが入っていました

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