三十路の上海留学5日目 後編

9月13日(金)留学5日目後編

 インド人との不思議なサシ飯を終え、寮に戻り、汚い鏡と戦ったり(前の住人がまったく鏡を磨かなかったのだろう。毎日格闘している)、そろそろ勉強もするかと机のうえを片付け、一部模様替えをしたりしていると17時正門集合で、と友達から連絡が来た。
 洗濯は明日に回すこととする。

 相変わらず地理と時間が苦手なので、15分前に正門に到着。正門近くにコンビニと(名前を忘れてしまった…)本屋さんがある。
 中国語版の日本の漫画を探すが、小さい書店なのでそれはなかった。
 代わりに2階にあがる階段に、「ミステリー」の本がおいてあって、そこに京極夏彦大先生の巷説百物語なんかがあった。いまは読む暇がないので、帰国前に購入することとする。

 本屋を出て、コンビニに入る。コロロなんかも売っていたけど、どうせなら日本では見ないものを…とよくわからん棒つきの飴を買った。
 会計のとき、「用支付宝(支付宝で)」というの気のよいおばさんが「可以!」と笑顔。
 いま私が知っている支付宝での決済は、相手のQR を読み取るか、こちらのQR を読み取ってもらうか、である。
 おろおろ相手の出方をうかがっていると、「ここにかざして」的なことを言われる。

 えっ、知らん、なにその決済方法…。画面はどの状態で??は??
 と全力で混乱していたら、おばさんが笑顔で私の手をつかんで「ここだよー」とスマホを該当箇所に導いてくれた。
 やっぱ上海の人優しい。

 定刻、正門で待っていると、自転車に乗った友達がこちらに手を振っていた。
 一緒に外滩に行くのは、既に知り合いの友達2人と、初対面の2人の5人。混ぜてもらったせいで奇数になってしまって申し訳なかった。
 
 既に友達の2人は、同い年が1人と、40代の女性でいずれも主婦である。初対面の2人はいずれも大学生で、そのうちの1人は半年前から留学しているとのことだった。
 大学生たちはワンピースやらおしゃれな格好をしていて、眩しさに失明を覚悟する。

 大学から歩いて5分くらいの金沙江路駅というところから、一度乗り換えた先に外滩はあるらしい(ひとまかせ)。
 駅構内はすごく広いし、路線は番号(山手線なら1号線、京浜東北線なら2号線、というかんじ)だしよくわからん。駅構内にコンビニがあるのは万国共通なのか?と思いながら歩いていく。

 改札に入る前に持ち物検査があって、それを終えるとすぐQRコードをかざさないといけないのでなかなか忙しかった。
 電車のなかは比較的空いていた。座席がプラスチック?のような固い材質であることと、座席のないところには円を描くようにつり革がぶら下がっているところが面白い。
 電話をしている人、大音量で動画を見ている人がいる。友達曰く、今日の電車はすごく静か、らしい。普段の車内はどんなもんなんだ。

 人任せof人任せで外滩のある駅に着く。地上にあがってすぐ、クラクション、クラクション、スピーカーきら流れる注意喚起?の中国語、観光客、観光客、観光客。
 駅から外滩への道中は両サイドに様々な店が連なるが、どれも照明、看板、力をいれていてギラギラであった。もはやギラつきすぎて、ゲーミングPCのような看板すらあった。

 随所に警察が立っていて、交通整備や、不審人物がいないか目を光らせている。
 
 到着したのは18時くらい。ちょうど逢魔が刻くらいで、ギラついてないビル群や銀行群の写真を撮った。
 「何時からきらきらになるんだろう?」
 「18時半とか?それとも時間でピタッと始まるって考えるのは日本的な考え方?」とか言いながら待つ。
 18時半になっても、かつて写真で見たような照明にならず、ここでようやく1人が「19時くらいだって!」とスマホ片手に教えてくれた。
 あと30分か…。

 めちゃくちゃ良いロケーションの最前列ではあるが、それを待ってから夕食、帰寮となるとだいぶ遅くなってしまう。
 すでに半年留学していた子のおすすめの店に行き、食後のビル群の夜景に関しては、すこし空いた頃合いに戻ってくることに決めた。
 
 彼女に導かれるまま、やってきたのは「上海姥姥」。
 友達曰く、韓国人の間で有名らしい。
 红烧肉、肉と角切り餅の何か(名前を覚えてくればよかった)、胡瓜の漬物、烏龍茶をとりあえず頼む。
 はじめは少なめに注文して、あとから追加しようと話していたのだが、まさかのそれだけで全員お腹いっぱいになってしまった。

 食事中、色々と話せてたのしかった。
・なぜ説明会が英語オンリーで話されるのか
・授業の欠席の仕方
・食生活
・食堂のおすすめメニュー
などなど。

 大学からの説明で、皆勤賞は表彰があると言われていた。私は中学校、7年の社会人生活ともに皆勤賞である(事前申請の有給のぞく)。
 今回の留学も、たった4ヶ月の貴重な機会なので、もちろん皆勤賞を目指すつもりだったのでそう言うと、既に半年留学している子から
 「すごい。私は週に一回はリフレッシュ休暇いれちゃってます笑」と言われた。

 おお、懐かしいこの感覚。
 この感覚すごくいいよな、と思った。

 私は30を目前に控えた、わざわざ日本で仕事を辞めてまでこっちに来ている、日本にローンも抱えた元サラリーマン・現無職である。
 中国留学は欧米圏への留学に比べて安価ではあるけど、安くない金を払ってここに来ているので、授業は全部出たいし、補講を受けられるなら受けたいし、課外活動にも参加したいしとにかく何もかもやりたくて仕方がない。

 でもこう、彼女の場合はなんというか、余裕?
 空白を楽しむゆとりを持って生活をしている感じがする?
 うーん言葉で表すとどうしても陳腐になる、なんと書けばいいのか。
 大学生特有の、まだ未来しかない感じというか、モラトリアムを楽しむ権利があるというか、選択肢が無限にあるというか。

 とにかく何が言いたいかというと、彼女のその言葉に決して不真面目だとは思わなかったし、なんなら好感を持ったうえで、自分が大学生だった頃を思い出したのだ。

 料理は全て美味しくて、さらに上海に来て以来の辛くない料理だった気がする。
 会計を1人に任せ、電車内で微信から送金した。ひとり48元(1,050円くらい)だった。

 店が混んできたのでさっさと退散する。19時半頃の外滩は右を見れば高層ビル群、左を見ればライトアップされて銀行群で、どこもかしこもが美しい。
 5人でめちゃくちゃ盛り上がりながら写真を撮って、良い頃合いで切り上げた。

 電車内。
 元気よく子供が走り回っている。おばさんは大音量で音楽を聴いている。平和である。
 金沙江路駅に到着し、電車を降りようとすると、大音量動画おばさんに話しかけられる。
 「ここ金沙江路駅?!」と言われる。「し、是的!(そうです)」、勢いに呑まれる。
 大慌てのおばさんとともにホームに降り立つと、おばさんはスマホを指差し、爆笑しながらなんか言ってる。たぶん「動画に夢中になりすぎて気がつかなかったわ!」的なことだと思われる。「再见」と返す。

 さて、改札を出る。
 1人が「冷たいものが飲みたい」というので、駅併設のショッピングモールに入る。
 「H&Mあるんだー」と言うと、1人が「洋服見たい」と言うので入店。
 ここで店舗で買うより淘宝で買った方が半額くらいで帰るよ、と教えてもらう。

 日本と比べると価格帯はそこまで悪くない気がしたが、無職の留学から見ると決して安くはない価格だと感じる。

 その後、桃の果肉がゴロゴロ入った冷たい飲物を買ってみんなで飲みながら帰寮。
 シャワーを浴びたり何だかんだしていて0時、ふとクイックルワイパー的なものとバスマットが欲しくなり、淘宝を漁る。安い。

 大学を送り先にすれば良いらしいが、細かいことは分からない。
 まあ上海人優しいから聞けばいっか…とポチ。

 初めての地下鉄はこれにて終了。

 

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