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ブルノ滞在日記⑨ 文献調査を頑張りすぎた

今朝は6時前に起床。朝食を食べて夫と電話をする。今日はやる気が出ない。全く出ない。それに反して、頭の中にはやらなければならない仕事が次々に湧いてくる。予約した文献の写真を撮ってしまわなくちゃ。そして、その中から参照するべきテクストを探し出さなくちゃ。あの詩とこの小説はどの本を探しても見つからない。専門家にメールで質問しようか? でも返事は返ってくるだろうか? 同人雑誌の校正や、『翻訳文学紀行Ⅳ』の準備もあるし、週末には友達と会う約束もある。しかも来週頭にはブルノ・マサリク大の日本学の学生さんとの交流会もある。彼らはこの二年間、日本へ留学したくてもできなかっただろうから、日本からの情報に飢えているだろう。できるだけ有益な交流をしたい。やらなければならないことで頭はいっぱいだ。とりあえず落ち着くために、日本の心療内科で処方された薬を飲んで、自律神経を整えるヨガをする。チェコに来て今日で9日目。少し疲れが出てきたかもしれない。とりあえず今日図書館に行くのはやめにしよう。家事をして、家でぼんやり本を読んだり、絵葉書を書いたり、簡単な詩を翻訳したりして、心を休めるべきだ。

そもそも昨日は頑張りすぎた。9時前に図書館に入館して、長編小説5冊の写真を撮って撮って撮りまくった。本当は一冊ずつ丁寧に読みたいのだが、滞在は1ヶ月だからそんな暇はない。とにかく本を写真に撮って、帰国後にも参照できるようにデータとして保存しておく必要がある。iPadを持つ腕の筋肉ももちろんだが、単純作業の連続で頭の方もくらくらしてくる。結局昨日は図書館内のカフェで昼食をとった後15時過ぎまで作業を続けた。頭が朦朧としてきて、これ以上は作業は無理だ、と悟った。脳が甘いものを欲している。喫茶店でゆっくりしたい。

図書館から滞在先までは徒歩で約30分。途中に気になるカフェが何軒かあるのだが、昨日に限って全て閉まっていた。最後の望みをかけて、家の近所にあるケーキ屋さん cukrárna に向かう。やった!開いてる! わたしは迷わずドアを開けた。

「疲れた時には甘いもの」というけれど、実際は砂糖の取りすぎは疲労を助長する。糖分を摂取した瞬間は脳の疲れが取れるようが気がするのだが、結果的には返って疲労感は高まるのだそうだ。慢性疲労症候群にかかった知人は、医者から砂糖や蜂蜜などの甘味料の摂取を厳しく禁じられていた。だから、わたしも最近は甘いものはできる限り控えるようにしている。

とはいえ、昨日はそれどころではなかった。「あぁ、これが一時的な快楽なのだということは知っている! しかし、わたしの脳は今ケーキを欲している。わたしの脳はケーキとコーヒーによってでしか癒されないのだ!」

長々と時間をかけてショーケースの中身を選んだ末、ブルーベリーチーズケーキとカプチーノを注文した。チョコレートケーキとティラミスにも心惹かれたが、葛藤の末、より糖分の少なそうなチーズケーキを選んだ。わたし偉い。小さなお店で、基本的には持ち帰り専門のお店のようだったが、隅のほうに申し訳程度に椅子とテーブルがあった。
「テイクアウトですか?」
と尋ねる店員さんに、
「店内で食べても構いませんか?」
と遠慮がちにお願いする。快諾していただいた。

ケーキはものすごく美味しかった。脳に糖分とブルーベリーの酸味が染み渡っていくのがわかる。カプチーノのミルクの甘味に心が癒されてゆく。食べるのに必死だったので、写真をとるのはもちろん忘れた。参考までに店のリンクを貼っておく。ツクラールナ・ヴェトルニーク Cukrárna Větrník という店だ。ヴェトルニークとは、チェコのシュークリームのようなもので、これを屋号としているということは、ヴェトルニークが売りのケーキ屋さんなのだろう。実際ショーケースの一段にはサイズや味の違うヴェトルニークが沢山陳列されていた。

ケーキを食べて満足して帰宅。いくつかメール対応をしているうちに夕飯の時間になった。夕飯はブロッコリーの茎と豚肉を使ったペペロンチーノ。9時前にはベッドに入って、昨日写真を撮った小説を読み始める。カール・ハンス・シュトローブル Karl Hans Strobl という、学生時代をプラハで過ごしたドイツ語作家だ。かなりドイツ・ナショナリズムを拗らせた作家で、大体の作品は、プラハに生活しているドイツ人学生が、チェコ人の女の子と恋に落ち、チェコ人ナショナリストと対決するというもの。非常に多作な作家で、おそらく人気があったのだろうと想像される。倫理的にはどうかと思うが、読んでみると読みやすく、面白いところもある。

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装丁も、表現主義的な感じでなかなかかっこいい。

今日は本当にやる気が出ないので、彼のある意味非常に分かりやすい本を読むにはちょうどいいかもしれない。とにかく今日は、買い物以外では家に引きこもってぼーっとしようと思う。

(写真はブルノ中心部にある別のカフェです)

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