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『ただいまの神様』 〜1歩踏み出した先に

こんにちは、ことろです。
今回は、前回の『おかえりの神様』の続編、『ただいまの神様』という本を紹介したいと思います。

『ただいまの神様』は、著・鈴森丹子(すずもり あかね)、装画・梨々子の小説です。
全6章で構成されており、序章、同居の神様、晩飯の神様、公園の神様、投球の神様、宴会の神様と、すべて"~の神様"というタイトルになっています。

今回の登場人物は、
中神結(なかがみ ゆい)。21歳。
うさぎが好きな女性。家の中に百体は居ると思われるうさぎのぬいぐるみと暮らしている。
十月十日が誕生日で、記念すべき転職先の初出勤の日でもある。『君に花束を』という花屋の事務員をしている。

大黒靖成(だいこく やすなり)。
結の勤めている花屋の先輩。
結の姉の彼氏でもある。

宮島大吉(みやじま だいき)。
結の高校時代の同級生。ミヤダイと呼ばれている。
とある居酒屋の店長をしている。
なお、前作『おかえりの神様』のコンビニ店員もといホテルの従業員である。

崇司(たかし)。
前作『おかえりの神様』にも出ていた会社員。転勤になって会社が変わっている。
結の姉の上司。部長。

大島絵麻(おおしま えま)。
結の姉。血は繋がっておらず、子供の頃に結の母と絵麻の父が再婚し、姉妹になった。
その後また離婚しているが姉妹の仲は良い。
大黒にプロポーズされるも、素直に承諾できなくて…?

今回は、山の神様、川の神様のほかに、森の神様が出てきます。エゾリスです。
ちなみに、山の神様は狸、川の神様はビーバーとなっています。
人の姿にも変化することができ、狸は二十歳前後のチャラい男性に、ビーバーは原宿系のカラフルな洋服に華奢な少女風。
そして、今回初めて登場したエゾリスは、白いワンピースに紺色のジャケット、黒髪ロングの清楚系女子でした。
狸は侍言葉を話し極度のマヨネーズ好き、ビーバーは花魁言葉で極度のチョコレート好き、エゾリスはチキチキの江戸っ子言葉に極度のコーヒー好きです。
どこかチグハグで、めちゃくちゃ濃いキャラ設定になっています。

物語は章によって主人公が変わります。
同居の神様では結が、晩飯の神様では崇司が、公園の神様では靖成が、投球の神様では絵麻が、宴会の神様ではミヤダイが、それぞれ主人公になっています。


人と接するのが苦手な中神結は、大学生の頃、近所の小さな会社で事務のアルバイトをしていました。事務所に篭る仕事なので人と接することがない理想な職場。就職するならここがいいと思っていた矢先、社員枠が空き、大学を辞めて思い切って入社したのでした。

しかし、骨を埋める覚悟で入社したのに2年目で突然のリストラ。
渋々会社は辞めたものの、すぐに再就職できるだろうと高をくくっていたら、就活現場は戦場でした。
そんなに甘くない世の中に打ちのめされ神様に祈ったそのとき、姉に頼ることを思いついた結は、とある会社を紹介してもらって面接を受け、無事に再就職することができました。
こうして、中神結は生まれ育った東京に別れを告げ名古屋へとやってきます。

最寄りのバス停から徒歩3分で総戸数八戸の木造アパートに到着。ここが、今日から結の一人暮らしのお家です。
そして、アパートからバスで15分くらいの場所に姉の住むマンションがあり、今日は結の誕生日の前日祝いをすることになっていました。
そのときに姉の部屋で社員旅行のアルバムを見つけ、なんと姉の彼氏らしき人を目撃します。彼氏が居たことすら知らなかった結はびっくりしていたのですが、写真を見るになんだかチャラい。崇司という名前らしいけど、これはもうチャラシですなーと冗談めかしつつ、やはりこれが姉の彼氏?とずっと頭に残ってしまうのでした。

翌日、誕生日の日は新しい職場の初出勤の日。『君に花束を』という名前の花屋さんで事務員になります。
そこで働いている大黒靖成と出会い、帰り道にミヤダイと偶然再会し、ミヤダイが店長をしている居酒屋に行くとあのチャラシが居て、一気に登場人物たちと出会っていきます。
おまけに家に帰ると、引っ越してきたばかりの部屋なのにすっかり片付いている!
泥棒でも入ったのか夢なのかといぶかしんでいると、そこに居たのはぬいぐるみでもなく自称神様の狸が居たのでした。
こうして、忘れられない誕生日を過ごした結は狸もとい山の神様との同居生活を始めます。

夜ごはんは食べない主義ですが、朝ごはんはものすごく食べる派の結。自炊ができます。料理は得意です。
百体近くあるうさぎのぬいぐるみ(もとい家族)の洋服も自分で縫ったりして、手先は器用です。
そんな結ですが、人と接するのが苦手なので事務員を選んだにも関わらず、大黒に呼び出されて、うちでは繁忙期のときは事務員でも店に立つことになってるからと、接客業を強いられます。
生まれて初めて接客業をする結。花屋の常連客マダムに絡まれながらも、なんとかその場をこなします。

同じ事務職でも前の会社とは全然違う。今までの経験を活かす事よりも、接客という新たなスキルを求められる。慣れない仕事に、受け入れられない姉の彼氏。頭の中を不安でいっぱいにしていた結は、帰宅して狸の神様と話します。

姉は彼氏について何か悩んでるらしい。そりゃ、あんなのと付き合ってたら悩みなんて尽きないはず。さっさと別れてしまえばいいのに。いや、別れさせてくれないのかも……。
そんなことで頭をモヤモヤさせている結。
ある日、偶然崇司を見かけた結は、尾行することにします。
家まで着いていくとは完璧なストーカーでござる、と神様に言われ、偵察だからと返すも、どんどんストーカー行為は増すばかり。
しかし、そのたびにチャラシの良い面ばかりを発見し、本当はチャラいだけじゃないのかも……と心を入れ替えていたとき、花屋の大黒さんからとある告白をされます。
なんと、姉と付き合っていたのは大黒さんだったのです!

なぜだか心にぽっかり穴が空いたような気持ちになる結。どうしてこんなにもチャラシのことが気になるのか。
しかし、結は今まで恋愛をしたことがない(誰かに恋したことがない)ので、自分は愛だの恋だのとは無縁の人間だと思っています。
それを見越した神様が背中を押します。
「お嬢はチャラシに惚れておるのだ」と。
認めざるを得ない結は、神様に言われた通り一度チャラシと会ってみることにしました。

どうやって会おうかと悩んでいたところ、とある弁当屋で偶然再会。
結は思い切って「友達になってください」とお願いします。
突然のことで驚いているチャラシですが、そこはチャラシ、持ち前のコミュ力の高さで「いいよ」と快諾したのでした。

……と、こんな風に神様と人間の縁結びの物語がつづられていきます。

晩飯の神様では崇司が人間に化けた狸の神様と交流がありますし、公園の神様では大黒と森の神様(エゾリス)の交流があります。投球の神様では絵麻が人間に化けたエゾリスの神様と交流があり、宴会の神様ではミヤダイの居酒屋に3匹の神様が集います。

どれも縁結びの手助けをしているので、カップル成立になっていくのですが、そこに至るまでの葛藤とか悩みの解決などを神様がしてくれるのです。

今回は大黒と絵麻がもともと恋人同士だったので、付き合うまでの期間だけでなく、付き合ったその後の期間もまた葛藤や悩みも多いのだと知ります。むしろそこからが本番なところもあって、お互いの心と向き合う姿勢は痛みも伴うのですが、ちゃんと答えを出せてえらいなと思いました。

一歩踏み出したその先に、新しい明日が待っている。
今まで誰にも言えなかったことも、神様にならなぜか言えてしまう。
そうやってほぐされた心で自分と相手と向き合ったとき、奇跡が起こるのかもしれません。


さて、いかがだったでしょうか?
今回も児童文学かどうかはさておき、いろいろな交流を経て人と向き合うことの大事さを学びました。
ほっこりする神様との日々に、いつか来る別れ。
それでもその別れを受け入れられるのは、大人になったからかもしれません。
続きが楽しみなシリーズです。

では、また
次の本でお会いしましょう~!


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